計画研究
今年度は特記すべき成果として以下の結果を得た。MATIIaおよびbについて、種間の保存性や既知ドメインを参考に多数の欠失変異体を作成し、293T細胞やHela細胞などで細胞内分布を比較した。そして、αの核蓄積がβによって促進されること、この調節にはαのC末端7アミノ酸の領域が核分布に必須であることを見いだした。以上の結果から、βはαの核移行を制御する調節サブユニットであること、そしてαのC末端領域と結合することにより核への分布を調節することが考えられた。一方、αの複合体をHePa1細胞から精製し、その翻訳後修飾状態を質量分析により検討した結果、数カ所のセリンおよびスレオニン残基がリン酸化を受けることを見いだした。αの核移行がリン酸化により制御される可能性を調べるために、これらリン酸化アミノ酸に変異を導入し、その細胞内分布やβに対する応答を調べる実験系を立ち上げた。このような過剰発現を用いた実験を進める過程で、同酵素のタンパク質量が転写後のいずれかの段階でも制御されていること、この制御は細胞内SAMレベルを感知していることを見いだした。そこで、mRNAレベルの制御、翻訳の制御、タンパク質安定性の制御について、それぞれ検証を進めた。現在のところ、次世代シークエンサーを用いた実験結果からは、細胞内ではMATIIαを含むごく限られた遺伝子のmRNAのレベルがSAM濃度により制御されていることを見いだしている。翻訳については具体的データは得られていない。タンパク質安定性については、シクロヘキシミド等を用いた系で検討を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
大きな発見として、αサブユニットの核分布がリン酸化により制御される可能性を見いだしたこと、αサブユニットの発現が、転写後の段階でSAMに応答して制御されることを見いだしたこと、の2つをあげたい。前者については、これまでの代表者らの研究から、クロマチンのメチル化に使われるSAMの多くは、細胞質から流れてくるSAMではなく、核内に存在するMATIIにより合成されることが分かっている。ということは、核内MATIIの量の変化によりクロマチンのメチル化が調節されている可能性が考えられる。この仮説を検証するためには、MATIIの細胞内局在を操作し、核内SAM量の変動やクロマチンメチル化の変動を測定比較する必要がある。当然βをノックダウンすれば、核内SAMが減少することが予想され、実際これは間違いないことを実験的に証明している。しかし、このような操作は人為的なものであり、同様の調節が生体内で起きているのかどうか、保証の限りではない。今回発見したリン酸化について、その責任リン酸化酵素と上流シグナル伝達系を特定することができれば、シグナル応答性MATII核内分布制御、という全く新しいこれまで予想もされていなかった概念を打ち立てることが可能となる。一方、SAMレベルの感知システムは、細胞質や核内のSAM量を厳密に調節し、クロマチンメチル化の恒常性を保つための仕組みであることが予想される。こういった新しい研究領域を切り拓くことができたことから、計画以上に進展、とした。
リン酸化によるMATIIの制御については、機能解析に既に着手したリン酸化部位に加え、研究進展状況もみながら残りの部位についても機能解析を進めるかどうか判断していく。責任酵素の同定については、阻害剤ライブラリーを先端がんプログラムより入手し、特定を試みる。いくつか明確な効果を示すキナーゼ阻害剤は見いだしているので、この経路の上流なども念頭に解析を進める。また、βノックダウンにより核内SAM濃度がどの程度変化するのかについて、現在開発中のメタボローム測定系をさらに精密化し、確定的データを得ていく。さらに、αとβの相互作用に影響を与える一アミノ酸変異を特定しているので、そのノックインマウス作成に着手する。これはクリスパー系を用いる予定であり、共同研究としてして進める。形質細胞分化を例として、MATIIの細胞内分布、SAM合成量、クロマチンメチル化変動のデータを完成させていく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://www.biochem.med.tohoku.ac.jp/