計画研究
本研究では、ヒトのからだが適正なエネルギーフローを維持するための「エネルギー動的平衡制御システム」について、エネルギー代謝のボトルネックである核小体に焦点を当て解析を進めている。今年度は、核小体に局在し、細胞のエネルギー代謝を制御するタンパク質複合体eNoSCの主要構成因子であるNMLについて、その遺伝子欠損マウスを用いて個体レベルでの解析を進めた。NMLは、肝臓において特に発現が高く、その遺伝子欠損マウスは、9割が胎児期に死亡する。出生した1割について解析を進めたところ、肝臓でのリボソームRNAの転写とタンパク質合成が有意に上昇しており、AMPの増加とATPの低下が認められた。その結果、NML遺伝子欠損マウスの肝臓ではAMPの濃度上昇に伴って活性化するkinase,AMPKの活性化が認められた。細胞内でのAMPKの活性化は、エネルギー産生を上昇させる方向に働く。すなわち、解糖系の亢進とTCAサイクルの活性化、脂肪のβ酸化の促進である。本研究者らは、肝臓細胞中での解糖系、TCAサイクル、脂肪のβ酸化について解析を進め、NML遺伝子欠損マウスでは、β酸化のみが亢進していることを見出した。NML遺伝子欠損マウスに高脂肪食を与えたところ、wild-typeに比べ、体重上昇が有意に抑制され、また、肝臓への脂肪蓄積も認められなかった。一方、NML遺伝子欠損マウス中での解糖系とTCAサイクルについては促進はほとんど認められなかった。NML遺伝子欠損マウスでは、脂肪酸の代謝が上昇しているにも関わらず、ATP濃度は低いままである。これは、TCAサイクルが亢進しないため、脂肪を分解してもAcetyl-CoAで止まってしまうためと考えられる。実際、NML遺伝子欠損マウス細胞中のAcetyl-CoA濃度はwild-typeに比べて著しく高いご現在のところ、AMPKが活性化するにもかかわらず、何故NML遺伝子欠損マウス中ではβ酸化の亢進しか見られないのかは不明である。今後はそのメカニズムについても解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
NML遺伝子欠損マウスの解析がほぼ終了に近づいている。また、NML阻害剤についてもin silicoでの設計は終了している。しかしながら、合成が困難であるなどの問題点もあり、今後の解決が必要な課題も出てきでいる。
NMLの解析は順調に進み、当初計画以上の成果が得られている。また、エネルギーフローを制御する新たな核小体因子についてもスクリーニングを進めている。NML阻害剤に関しては、上述したようにin silicoでの設計は終了しているが、構造が複雑であること、細胞透過性の問題、NMLの活性をいかに測定するかなどの問題が出てきている。合成に関しては、単なる外注ではなく、企業などとの共同研究も視野に入れ進める必要が出てきている。ただ、NML遺伝子欠損マウスの表現型から、NMLの阻害は脂肪の分解に繋がると考えられることから、もしかすると一部の挑戦的な製薬メーカーなどが興味を持ってくれるかもしれない。
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