研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
23116008
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
菅澤 薫 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センター, 教授 (70202124)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝子 / エピゲノム / 発現制御 / DNA損傷修復 / 変異 |
研究実績の概要 |
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割 XPC、およびDDB2タンパク質についてクロマチン免疫沈降(ChIP)を行い、共沈するヒストン修飾の中で紫外線照射により変動するものを網羅的に解析した。その結果、細胞内のヒストン全体を見た場合、ある種のアセチル化が紫外線照射後に誘導される一方、XPCやDDB2を含むクロマチン複合体ではこれらの修飾がむしろ排除される傾向が見られた。これらの修飾・脱修飾に関わる酵素の過剰発現や発現抑制がDNA修復や細胞の紫外線応答に及ぼす影響の解析を現在進めている。一方、DNAやRNAの内因性メチル化損傷の修復に関わるAlkBホモログについて過剰発現、および発現抑制した安定形質転換細胞株を、HeLa細胞を親株としてそれぞれ複数単離した。その結果、AlkBホモログの発現レベルと細胞増殖速度の間に相関が見られたことから、その分子機構について転写・代謝環境との関わりにも注目しながら解析を進めている。
2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割 能動的DNA脱メチル化への関与が示唆されている塩基除去修復因子TDGについて、Tdg欠損マウス胎仔線維芽細胞を親株として種々の変異TDGを安定発現する形質転換細胞株を樹立した。これらの細胞を用いてTDGの翻訳後修飾、DNAグリコシラーゼ活性、DNA結合活性などがDNAのメチル化状態に与える影響の解析と、塩基除去修復における機能との比較検討を行っている。またGadd45aの強制過剰発現誘導が、細胞増殖速度の低下とDNA損傷に対する感受性の増強を引き起こすことを見出した。一方、DDB2のN末端領域の翻訳後修飾、特にアセチル化ミミック変異体が細胞の紫外線感受性を増強する分子機構について、修飾特異的な相互作用因子の同定へ向けて複合体精製を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割 ヌクレオチド除去修復(NER)経路のDNA損傷認識因子XPC、DDB2については、ChIPにより共沈するヒストン修飾を特異的モノクローナル抗体を用いて網羅的に解析する当初の予定をほぼ達成した。一方、転写・代謝システムとの関連で重要な内因性メチル化損傷修復経路の解析に新たに着手し、AlkBホモログの安定発現、発現抑制細胞株などの主要な材料調製を済ませた上で細胞増殖速度等の予備的解析を開始した。このように、この部分の研究は概ね順調に進んでいる。
2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割 種々の変異型TDGの安定発現細胞株を作成する段階で、過剰発現したTDGタンパク質の不安定化により検出が困難になるなど、予期しない問題のため若干研究の進展が遅れ気味である。現在は発現系を変更することで改善が見られており、今後の研究を進める上では特に支障はないと考えている。Gadd45aの発現誘導系の構築、DDB2変異タンパク質の安定発現と性状解析、複合体調製については当初の計画通り進んでおり、研究全体としては概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割 NER経路に関しては、これまでの解析で明らかになったヒストンのアセチル化との機能的関連について、修飾・脱修飾酵素の過剰発現や発現抑制がDNA損傷の修復効率、修復タンパク質の細胞内局在(損傷部位へのリクルート)に及ぼす影響を解析するとともに、ChIP-seq解析を本格的に開始してDNA修復装置と転写環境との関係をゲノムワイドな視点から調べていく予定である。また、AlkBの過剰発現、および発現抑制細胞については、内因性メチル化損傷の主因と考えられるS-アデノシルメチオニンや、AlkBホモログが補因子として用いるa-ケトグルタル酸の変動を中心にメタボローム解析を試みるとともに、融合したタグを利用した相互作用因子の同定、およびChIP-seq解析による転写環境との関わりについて解析を進めて行く。
2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割 TDGに関しては、種々の変異タンパク質発現細胞を用い、塩基除去修復因子としてのDNA結合活性やDNAグリコシラーゼ活性、および翻訳後修飾・分解とDNA脱メチル化との関係について結論を出すとともに、新規相互作用因子の探索を開始する。同様にGadd45aについてもDNA脱メチル化に対する影響の解析と相互作用因子の同定を行い、最終的には能動的DNA脱メチル化反応の試験管内再構成を目指したい。またDDB2の翻訳後修飾については、N末端領域の修飾特異的相互作用因子の探索を行うとともに、紫外線照射した変異DDB2発現細胞のトランスクリプトーム解析を行って、細胞のゲノム損傷応答を制御するDDB2翻訳後修飾と細胞内シグナル伝達、転写環境再構築との関連を明らかにしていく。
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