計画研究
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割哺乳類のヌクレオチド除去修復におけるDNA損傷認識タンパク質であるXPCやDDB2を標的とするクロマチン免疫沈降(ChIP)により、ある種のアセチル化ヒストンが紫外線誘発DNA損傷の認識の場から積極的に排除されている可能性が見出された。細胞をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理することで、XPCの紫外線損傷部位へのリクルートの遅延、および細胞全体における損傷修復速度の低下が見られ、ヘテロクロマチン様の構造がDNA修復に対して促進的に作用する可能性が示唆された。一方、DDB2のN末端テール領域においてさまざまな翻訳後修飾の標的となる複数のリジン残基に変異を導入することにより、DNA修復活性とは独立して紫外線に対する細胞の感受性や遺伝子発現パターンが変化することを見出した。2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割自然突然変異の抑制、および能動的DNA脱メチル化への関与が示唆されている塩基除去修復因子チミンDNAグリコシラーゼ(TDG)が、細胞を紫外線や過酸化水素水、メチルメタンスルホン酸などのDNA損傷剤で処理することでユビキチン-プロテアソーム系による分解を受けることを見出し、この過程に関わるユビキチンリガーゼの同定、および精製タンパク質因子によるユビキチン化反応の再構成に成功した。一方、DNAやRNAの内因性メチル化損傷の修復に関わる大腸菌AlkBの哺乳類ホモログ(ALKBH2/3)を過剰発現、および発現抑制した安定形質転換細胞株についてメタボローム解析を行い、ALKBHの発現レベルが特異的な細胞内代謝経路に影響を与える可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割DNA損傷認識の場におけるヒストン修飾のChIPによる解析がほぼ終了し、その結果に基づいて遺伝子発現に対して抑制的に働くとされるヘテロクロマチン様構造がDNA修復においてはむしろ促進的に作用するという、予想外ではあるがきわめて興味深い結果を得つつある。一方、DDB2のN末端テール領域における翻訳後修飾に関する知見は、修復のための損傷認識と転写環境の再構築を結ぶシグナル伝達経路の理解につながる可能性がある。このように、この部分の研究は順調に進んでいる。2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割TDGのDNA損傷誘導性分解の分子機構については、関与するユビキチンリガーゼの同定とユビキチン化反応の試験管内再構成に成功した。DNA複製や修復時にTDGが分解されないことがエピゲノム情報の消去につながるとの作業仮説に基づき、分解耐性の変異TDGの作成、およびDNAメチル化状態や遺伝子発現パターンを解析するための材料は整いつつある。ALKBHの機能解析に関してもSAMレベルの人為的操作のための条件検討が進んでおり、研究全体としては概ね順調に進んでいる。
1.DNA損傷修復制御におけるエピゲノム環境の役割NERにおけるヒストン脱アセチル化酵素の役割をより詳しく調べるため、siRNAライブラリーを用いて実際にNERに関わる分子種の同定を行う。また、他にヘテロクロマチン構造形成に関与することが知られているHP1やヒストンメチル化酵素等についてXPC、DDB2との相互作用、およびNERにおける機能解析を進める。また、N末端テール領域に変異を導入したDDB2を安定発現する細胞株において、p53の有無が細胞のDNA損傷応答や遺伝子発現制御に与える影響を比較解析する。2.エピゲノム制御におけるDNA修復機構の役割Tdg遺伝子欠損マウス線維芽細胞を親株として、野生型および分解耐性型TDGを安定発現する細胞株を作成し、複製や修復に伴うDNAメチル化状態、および遺伝子発現パターンへの影響を調べる。またタグを利用した複合体精製、および質量分析により、TDGと相互作用する新規因子の探索を進める。さらにALKBH2/3の発現レベルを人為的に操作した細胞を用いて自然突然変異、トランスクリプトーム、メタボローム解析を進めるとともに、SAMレベルの変動がこれらの細胞の表現型に与える影響を解析する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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