研究領域 | マトリョーシカ型進化原理 |
研究課題/領域番号 |
23117004
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30282198)
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研究分担者 |
松崎 素道 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00511396)
井上 勲 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70168433)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / 色素体(葉緑体) / 進化 / 藻類 / 寄生虫 / 原生生物 |
研究実績の概要 |
<研究項目1>昨年度取得したハテナのゲノム配列には、他種真核生物ゲノムの混入が多かったため、ハテナゲノムの再シーケンスを行った。混入ゲノムが少ない良好な配列18.5 Gbpを得た。昨年度から引き続き共生および自由生活ネフロセルミスのトランスクリプトームの比較について更に詳細な解析を進めた。その結果、共生ネフロセルミスでは、光化学系や炭酸固定の経路の遺伝子が選択的に発現していることが明らかとなった。 <研究項目2>ヌクレオモルフゲノムにコードされる遺伝子の発現パターンを把握するため、Bigelowiella natansを用いて、qPCRおよびRNA-seqによる発現解析を行なった。その結果、ヌクレオモルフコード遺伝子のほとんどで発現調節の存在が示唆されなかったが、cpn60と機能未知遺伝子bnatcher2110のみ有意に発現量が変化し、さらなる詳細な解析によりヌクレオモルフ遺伝子の転写制御因子の存在を初めて示唆した。また、クロララクニオン藻の二次葉緑体分裂装置と二次葉緑体DNAの複製機構の一部についても明らかにし、二次葉緑体のDNA複製に関わるポリメラーゼ遺伝子を新規に同定した。 <研究項目3>パーキンサスの形質転換を安定的に実施するため薬剤選択系の樹立を試みたところ、ブレオマイシンにより効率的な選抜が可能であることが示された。これを用いて、二次葉緑体の最外膜に局在する三炭糖リン酸輸送体に対しエピトープタギングを行った安定発現株を樹立した。ミトコンドリアゲノムから転写される低分子RNAについて網羅的に解析した結果、リボソームRNAの断片を含む近縁種間でよく保存されたRNA分子が存在していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<研究項目1>昨年度までハテナのゲノム配列取得に苦労してきたが、今年度、野外からのハテナ細胞を大量に取得するコツを掴んだことにより、良質のハテナ細胞試料を得ることに成功した。これによりハテナのゲノム解読が飛躍的に進展したため、これまでの遅れを取り返すことができた。 <研究項目2>クロララクニオン藻のヌクレオモルフゲノムの進化について、ゲノム配列の進化については昨年度大きく進んだため、今年度は、そこにコードされる遺伝子の発現調節に関する研究へと新たな展開をすることができ、順調に研究を遂行できている。葉緑体の分裂機構については、クロララクニオン藻の葉緑体の分裂装置の解明について順調に成果を出すことができたほか、クロララクニオン藻の葉緑体DNAの複製機構の一部とDNAポリメラーゼ遺伝子の進化について大きく進展し、期待以上の成果があった。 <研究項目3>安定な形質転換体を得るのに時間がかかったため想定よりも遅れているが、新規薬剤選択系により安定発現株の樹立に成功したのでこれを用いて研究を進める。 以上を総合し、研究は全体として概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
<研究項目1>今年度再取得したゲノム配列についてアノテーションを進める。同定された遺伝子の配列を用いて網羅的に系統解析を行い、HGTを探索する。これにより、二次共生初期段階におけるHGTの重要性を評価する。 <研究項目2>今後は主に以下の2点について研究を進めていく。 ①B. natansの細胞周期を通じたRNA-seqデータを用いた核、ヌクレオモルフ遺伝子の転写パターンの解析。特異的な発現パターンを示すことが明らかになったヌクレオモルフコードcpn60と、共発現する核ゲノム遺伝子を探索し、核とヌクレオモルフの転写制御ネットワークを推定する。また、全核ゲノム、ヌクレオモルフ遺伝子の発現パターンのクラスタリングを行い、遺伝子機能と転写調節との関係を解明する。葉緑体遺伝子の発現は、一部をqPCRによって定量し、核やヌクレオモルフの遺伝子の発現パターンと比較する。 ②ヌクレオモルフおよび葉緑体へ輸送される転写制御因子の推定。新たに再構築した遺伝子モデルを用いて、N末端の疎水性領域の存在によるシグナルペプチドの予測や、他生物の葉緑体輸送タンパク質との相同性などの情報を用いて、葉緑体、ヌクレオモルフそれぞれのプロテオームのリストを作成する。その中から転写制御因子を推定し、遺伝子導入によってその局在を明らかにする。 <研究項目3>樹立したエピトープタギング安定発現株を用いて免疫沈降を行い、プロテオーム解析に充分な精製度を得る。単離した葉緑体のショットガンプロテオーム解析を行い、得られた候補タンパク質の局在をエピトープタギングで検証することで、葉緑体局在タンパク質を網羅的に把握する。並行して植物ホルモンをはじめとする縮退葉緑体の想定機能について解析を進め、寄生性獲得との関連を考える。またミトコンドリアの翻訳系に着目し、パーキンサスの二次葉緑体においてDNAが失われていることとの関連を検討する。
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