計画研究
多様な生態・環境の中で独自に進化を遂げたミトコンドリアの構成・タンパク質輸送・機能とその祖先(由来)を解明し、ミトコンドリアの独自進化が宿主に授けた能力・依存を理解することにより、ミトコンドリアの「マトリョーシカ型進化原理」を確立する。具体的には、嫌気的環境に適応した赤痢アメーバのマイトソームへの輸送・分裂・機能の分子機構と進化の系譜を解明する。本年度は特に赤痢アメーバのマイトソームへのタンパク質輸送の分子機構を解明することに成功した。マイトソームの外膜タンパク質であるTom40を標識したタンパク質を発現する赤痢アメーバ形質転換体から免疫沈降法で複合体を精製し、質量分析により、Tom60と名付けて新規タンパク質を同定した。更にTom60のマイトソームへの局在を免疫電子顕微鏡および細胞分画・イムノブロットにより証明した。更に、マイトソームマトリクスタンパク質がインビトロでTom60と直接的に、間接的に結合することを証明した。本研究成果は高度に機能分化したミトコンドリアにおいて、新規の受容体・輸送体が機能することを示した最初の例であり、真核生物・オルガネラの進化の理解に対して大きなインパクトをもっている。更に、多様な生態・環境に適応したカルペディオモナス様生物を含む複数種類の自由生活性嫌気性原生生物を材料として、EST, ゲノム解析を継続した。
2: おおむね順調に進展している
当初のマイトソームへのタンパク質輸送機構に関して新たなコンポーネントを同定し、機能を証明するなど、インパクトの高い成果を挙げた。また自由生活性原生生物のEST, genome情報も確実に獲得されている。これらのマイトソームの解析や赤痢アメーバのマイトソームの分裂に係る分子の機能解析等に関しては3年次以降の仮題となる。
赤痢アメーバの高度変異ミトコンドリアであるマイトソームへのタンパク質輸送の分子機構をより深く理解することを目的として、外膜および内膜のスーパー複合体を獲得する方法を確立する。赤痢アメーバにプロテインAを付加したATPスルフリラーゼを発現させ、免疫グロブリンで免疫沈降法により膜輸送に関与するスーパー複合体を分離精製する。精製された複合体のコンポーネントを質量分析により同定し、個別のタンパク質の機能を解析したい。また、膜の輸送体であることが予測されるβバレル型タンパク質をゲノムから同定し、局在・機能を明らかにする。膜タンパク質の機能解析は、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いて、リポソーム上にβバレル型タンパク質を発現させ、通過する基質などを同定する。また、嫌気的原生生物群フォルニカータ生物3種および自由生活性EntamoebaのESTデータを、バイオインフォマティクス・分子系統解析によりさまざまな生物種のデータと比較解析し、嫌気的エネルギー代謝経路、オルガネラへのタンパク質移送機構などの分子進化に関する知見を得る予定である。CLO-NY0171に関しゲノム解析を行う。Dysnectes brevis および CLO-NY0171 のMRO関連タンパク質の局在について、遺伝子導入が可能な Trichomonas vaginalis, Giardia intestinalis の系を用いて検討する。また、バクテリア混在下で両生物種のMROを精製するための方法論的検討を行う。新規発見されたEntamoebaのドラフトゲノム情報を補完するためのゲノム構造マッピングを行い、総合的な赤痢アメーバ・ゲノム情報そして基盤構築を目指す。内在する細菌とウィルス等の存在を網羅的に検出し、共生関係についてその意義を代謝を中心に検討する。
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すべて 雑誌論文 (25件) (うち査読あり 25件) 学会発表 (6件) 備考 (2件)
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