マラリア原虫やトキソプラズマなどアピコンプレクス門原虫の大きな特徴の一つとしてアピコプラストと呼ばれるオルガネラの存在が挙げられる。アピコプラストは葉緑体が退化してできた4重膜構造の細胞内小器官であり、光合成細菌を取り込んだ紅藻類の祖先が原虫の祖先生物に取り込まれることによって成立したと考えられている。一方、申請者らは最近、トキソプラズマが植物ホルモンの一種であるアブシジン酸およびサイトカイニンを産生しており、トキソプラズマはこれらの植物ホルモンを自身の増殖の制御に用いていることを明らかにしてきた。そこで本研究では、これらの予備的解析を元に、トキソプラズマやマラリア原虫の持つ植物ホルモンやその阻害薬の作用を詳細に検討し、アピコンプレクス門原虫がどのような植物ホルモンをどのように用いているのかを明らかにすることで、原虫に存在する葉緑体起源のオルガネラ(最内層のマトリョーシカ)が、宿主である原虫(中層マリョーシカ)の「寄生」という行動をどのように支配しているか、また更に、支配された「寄生体」が「被寄生体」である哺乳類宿主細胞(外層マトリョーシカ)をどのように支配しているのかを理解することを目的とした。 本年度、申請者らはアピコンプレクサの持つ植物ホルモンの網羅的な検出・定量を試みた。その結果、これまで存在が確認されているアブシジン酸・サイトカイニンのほか新規に数種の植物ホルモンが検出され、一部は非常に高濃度に蓄積していることが判明した。現在は新規検出されたホルモンの生理機能を分子生物学的手法を用いて解析している。
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