計画研究
申請者らは最近、トキソプラズマが植物ホルモンの一種であるアブシジン酸およびサイトカイニンを産生しており、トキソプラズマはこれらの植物ホルモンを自身の増殖の制御に用いている ことを明らかにしてきた。そこで本研究では、これらの予備的解析を元に、トキソプラズマやマラリア原虫の持つ植物ホルモンやその 阻害薬の作用を詳細に検討し、アピコンプレクス門原虫がどのような植物ホルモンをどのように用いているのかを明らかにすることを目的とした。昨年度、申請者らはトキソプラズマやマラリア原虫中に大量のサリチル酸の存在を見出した。そこで本年度申請者らは、マラリア原虫をモデルにサリチル酸の生理機能の解析を行った。熱帯熱マラリア原虫に細菌由来のサリチル酸分解酵素遺伝子を導入し、サリチル酸欠乏原虫を作出した。この変異原虫は野生株と比較して増殖速度などに大きな差は認められなかったが、マラリア原虫が産生することが知られている炎症物質PGE2の産生量が有意に減少していた。このことからサリチル酸とPGE2合成系の関係性、宿主免疫系を改変している可能性が示された。この可能性を検証するため、ネズミマラリア原虫を用い、同様に欠乏原虫を作出した。欠乏原虫は感染試験におけるマウス致死活性が有意に上昇しており、脳組織検査、色素漏出試験の結果、脳マラリアの重症度が亢進していることが確認された。PGE2は炎症性サイトカインを介した脳マラリア発症への関与が知られている。そこで感染マウス血中でのPGE2、および各種サイトカインの定量を行ったところ、サリチル酸欠乏原虫では血中PGE2濃度が減少し、また炎症性サイトカイン産生が亢進していた。以上から、サリチル酸は宿主のPGE2および炎症性サイトカイン濃度を変化させ、宿主免疫を改変する機能を持ち、マラリアの重症度決定に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
トキソプラズマ、マラリア原虫、アイメリアのメタボローム解析が完了し、サリチル酸の機能解析にも一定の成果が得られた。
アピコンプレクサ以外の近縁生物におけるメタボローム、およびマラリア原虫以外のサリチル酸の機能解析を行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件)
Parasitol. Int.
巻: 63 ページ: 638-639
10.1016/j.parint.2014.04.003
J. Vet. Med. Sci.
巻: 76 ページ: 25-9
PMID: 23965940
細胞工学
巻: 32 ページ: 226-231
IDWR 感染症発生動向調査 感染症週報
巻: 15 ページ: 20-25