計画研究
本研究では、共生体によって駆動される真核生物の進化の基本原理を解明するという本研究領域の全体構想の中で、オルガネラの創成と進化の理解に根ざしたオルガネラの人為的操作を通して有用生物を創出すること、すなわち人工マトリョーシカ創成への試みを実施している。25年度においては、洲崎は細胞内共生中のクロレラからPV膜を単離し、含まれるタンパク質を解析した。ここには、クロレラが産生したマルトースをホストの細胞内へと輸送するための輸送体、マルトースの分解酵素、ホストからクロレラへのアミノ酸の輸送体、PV膜内部を低pHに維持するためのプロトンポンプなどが存在することが示唆されたので、RNA-Seq法により得られたmRNAの推定配列情報を基にPV膜に存在するタンパク質の特徴とコードする遺伝子を質量分析法により同定し、これらの機能解析を試みた。一方、分担研究者の橘は、赤痢アメーバのミトコンドリア関連オルガネラであるマイトソームの移植に関する研究を実施した。(1)移植用マイトソーム調整法の改良やマイクロインジェクション条件の適正化を行い、同種間移植ではマイトソームのインジェクション効率が上昇した。(2)E. invadensをレシピエント細胞としてマイクロインジェクション後の増殖曲線を解析し、インジェクションによりlag phaseが長くなるものの、その後の増殖速度には影響がないことを確認した。(3)赤痢アメーバの近縁種E. nuttalliの全ゲノムについて、第3世代のシーケンサーであるPacBio RSを用いて解析を進めた。マイトソーム関連タンパク質について、赤痢アメーバとアミノ酸レベルでの高い相同性が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
洲崎は、24年度の研究内容を引き続き継続するとともに、細胞内共生中のクロレラのPV膜に含まれるタンパク質を解析した。橘は、マイクロインジェクションによるオルガネラ移植系の確立をめざしてきた。マイトソームの移植については、至適条件の検討がほぼ完了し、移植直後にはレシピエント細胞中にドナー由来のマイトソームを確認できている。
洲崎は、25年度の研究内容を継続する。すなわち、細胞内共生中のクロレラからPV膜を単離し、含まれるタンパク質を解析する。RNA-Seq法により得られたmRNAデータを基にPV膜に存在するタンパク質を網羅的に同定し、その特徴を解析する。さらに、PV膜の起源である食胞膜についても同様に網羅的プロテオーム解析を行い、PV膜を特徴付けるタンパク質成分の同定とその機能解析を実施する。橘は、移植後のマイトソームの動態やレシピエント細胞への影響について解析を進める予定である。そのために、Tag 融合マイトソーム蛋白質を強制発現させたアメーバ株や機能を改変したアメーバ株の新規樹立、マイトソームのlive-imaging法の確立などにも取り組む予定である。また、E. nuttalliの全ゲノム解析もさらに推進する予定である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (18件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)
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