計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
当該年度において、自己・他者に関する言語をもちいたメタ認知の神経機構の解明をめざし、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging;以下fMRIと略記)を用いた実験をおこなった。具体的には、自己・他者のメタ認知に重大な障害をもつとされる、成人の自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder;以下ASDと略記)当事者と健常被験者に対し、新しい言語性の自己/他者参照課題を考案した。この課題は、たとえば「あなたはあなたのことを賢い人だと思う」のような文を提示し、特定の人物の視点から、ある人物の性格に関する評価をさせるもので、視点と(評価の)対象を自己または他者に変化させることで、問題文の構文を保持しつつ、言語を用いた高次の自己/他者参照処理を評価できる。当該年度までに、各群15名ずつのfMRIデータ収集をおこない、予備的な解析をおこなったところ、自己・他者認知に関わる脳領域とされる大脳正中面の領域、および左側頭頭頂部において、ASD群において有意な信号低下を観察した。この結果は、成人のASD当事者において、これらの領域が視点に応じた複雑な自己/他者参照をおこなう際に機能が低下していることが、社会コミュニケーション障害の一因となっている可能性を示唆している。このfMRI研究をさらに発展させるため、fMRI環境での視線方向計測装置、および脳波計のセットアップをおこない、多角的な脳機能・行動計測環境を整備した。また、AO2萩原/岡ノ谷との共同研究で、自己/他者の声の認知に関わる実験の準備をすすめ、声の基本周波数やフォルマント構造を操作する実験環境を準備した。
2: おおむね順調に進展している
言語を用いた自己・他者参照課題のfMRI実験が、当該年度終了時点において、予備的とはいえすでに論文化しうるデータ数に達している。学会演題への登録もおこない、順調に進んでいるといえる。fMRI同時計測用の視線計測器・脳波計のセットアップには予定以上の時間がかかったが、同時計測の実験は、具体的には上記のfMRI単独実験め結果をうけてデザインする必要があるため、fMRI単独実験が継続中である以上、大きな予定の変更は生じていない。自己の音声認知の行動実験も予定どおりデータ数を増やしつつある。
次年度以降に、当該年度において整備したfMRI・視線方向、fMRI・脳波同時計測環境を使用して、さらに多角的に言語を用いた自己・他者のメタ認知に関わる神経機構の解明をすすめる。fMRIを用いた自己・他者参照課題のデータ数を増やし、論文としてまとめる。さらに、当該年度に開始した自己の音声認知の行動研究のデータ収集を完了させ、論文化をめざす。その結果に基づいて、発話においてオンラインでフィードバックされる自己の音声認知の研究に進展させる。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Neuroimage
巻: 61 ページ: 1176-1187
10.1016/j.neuroimage.2012.03.042
Research in Autism Spectrum Disorders
巻: 6 ページ: 907-912
10.1016/j.rasd.2011.12.004