研究領域 | 精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学 |
研究課題/領域番号 |
23118004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笠井 清登 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80322056)
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研究分担者 |
田中 聡 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00456675)
山崎 修道 公益財団法人東京都医学総合研究所, その他部局等, 研究員 (10447401)
村井 俊哉 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30335286)
岡本 泰昌 広島大学, その他の研究科, 准教授 (70314763)
西村 幸香 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60456738)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自己制御修復 / 神経モジュレーション / 心理社会的介入 / 対人コミュニケーション / メタ認知 / 身体自己像 / 情動 / 言語 |
研究実績の概要 |
笠井は、思春期に発症し自己制御障害を呈する統合失調症患者を対象にした包括的な生物学的研究を行い、前頭前野などの機能障害を示した。精神機能の自己制御障害の介入方法の一つとして、NIRSを用いたニューロフィードバック法を考案し、特許出願した。思春期の自己制御の発達の脳基盤を解明するため、A01との密接な連携により、10才児に対するホルモン・エピゲノム・神経画像を計測するための準備をおこなった。西村は、成人の一般住民を対象として、ストップシグナル課題による自己制御能力と社会階層の関連を明らかにした。田中は、神経性無食欲症患者(28例)と健常者(31例)に身体指標、血漿・DNA・芽球化リンパ、神経心理検査、頭部MRI画像、fNIRS、顔画像認知の検査を施行し、患者群と健常群における神経基盤と認知傾向の差異を見出し、介入点の候補について検討した(A02連携)。村井は、対人コミュニケーションにおける衝動性・依存・社会行動障害という自己制御の障害の諸側面に注目し、支援策開発を進めた。①健常者、②統合失調症患者、③脳損傷患者、④依存症患者、⑤発達障害者を対象とした。特に②において自己制御に関わる脳構造の変化と、心理指標との関連を見出した。また、③の特徴的な脳画像パターンを見出し、自己制御の障害に関する脳領域の探索を開始した。岡本は、新入大学生に対する精神の自己制御性の獲得によるうつ病発症予防介入に向け、認知行動療法プログラムと自己制御評価の脳賦活課題を作成し、新入大学生を対象としたコホート研究を1年間施行し、予備検討を行った。山崎は、言語・認知による自己制御支援法の効果と脳基盤検討のため、メタ認知訓練法の本施行を開始した。メタ認知指標・各種心理指標と治療アウトカム指標の関連を検討するための、リクルートと評価を行った。学生相談等教育分野と連携し、思春期の若者を対象とした実践も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の順調なセットアップに引き続き、思春期における精神機能の自己制御形成過程の支援に向けて、研究がおおむね順調に進展している。笠井らの、統合失調症の早期介入の総合的研究の論文(Schizophr Res, 2013)や、近赤外線スペクトロスコピーを用いたニューロフィードバック法を開発し、特許出願をしたことは特筆すべき成果である。また、村井らは、統合失調症の自己制御障害と関連の深い前頭葉眼窩面の構造異常と連絡異常をMRIを用いて示し、精神医学でもっとも権威のある雑誌(JAMA Psychiatry)に掲載された。岡本らは、認知行動療法プログラムと自己制御評価の脳賦活課題を作成し、新入大学生を対象としたコホート研究を開始したことは、世界的に見ても先進的な研究である。A03内連携については、笠井と西村により、社会階層と自己制御の関連の研究が進展し、笠井と山崎により、メタ認知訓練法の統合失調症患者への効果研究が進展している。A01班・A02班との実質的な共同研究も順調に進んでいる。A01の思春期コホート調査のリクルートが自治体との調整のため、当初の予定より若干遅れて進行しているため、A01とA03の共同研究である、思春期コホートサブサンプルにおけるバイオマーカー研究については、モニター被験者による検討の段階であるが、平成25年度に開始出来る見通しである。そのためのMarcus Richards博士などの英国コホート研究者との国際共同研究に向けた打ち合わせも順調に進んでいる。A02とA03の共同研究である、サルとヒトでの共通の計測系を用いた社会的文脈理解の脳基盤研究は、共同研究ミーティングを多数行い、fMRIの課題作成を行った。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症、うつ病、摂食障害などの自己制御障害を示す精神疾患に対し、脳病態を解明し、それにもとづく薬理学的・心理社会的介入法を開発する。笠井は、統合失調症の早期病態を分子生物学的検討により明らかにするとともに、ニューロフィードバック法の脳基盤解明、山崎との連携によりメタ認知訓練法研究を組み合わせて、分子から社会までの介入方法を検討していく。岡本は、うつ病に対する認知行動療法プログラムを大学生に適用し、自己制御改善の脳基盤を検討する。田中は、身体イメージの自己制御障害である摂食障害についての検討を進める。村井は、統合失調症患者、触法患者、脳損傷患者を対象とした研究により、精神疾患の自己制御障害の脳基盤の研究を継続し、科学的な支援策の検討を行う。A01との連携による、思春期コホートサブサンプルにおけるバイオマーカー研究については、プレ実験を行い、平成25年度中に開始する。A02との連携による、サルとヒトでの共通の計測系を用いた社会的文脈理解の脳基盤研究は、健常人におけるfMRI計測を開始する。 当初、統合失調症患者を対象とした、不飽和脂肪酸による自己制御障害の改善の介入研究を行う予定であったが、予備的な分子生物学的検討により、別の栄養物質の著明な異常を見出したため、現在その物質を用いた介入研究に変更する可能性を検討している。
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