研究領域 | 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築 |
研究課題/領域番号 |
23119004
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柘植 謙爾 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特任講師 (70399690)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝子集積 / 人工オペロン / 解糖系 / カロテノイド / アントシアニン / OGAB |
研究実績の概要 |
多因子が関与する代謝経路として、色素性物質の「カロテノイド」、「アントシアニン」の2つ代謝経路を具体例に取り上げ、以下の研究を行った。
「カロテノイド」 大腸菌におけるグルコースからカロテノイドまでの合成経路のうち、中間の解糖系からイソペンテニル二リン酸 (IPP)の供給代謝経路について、大腸菌が有する「解糖系(大腸菌)」+「非メバロン酸経路(大腸菌)」以外に、酵母遺伝子による「解糖系(酵母)」+「メバロン酸経路(酵母)」の経路を大腸菌に導入することを目標に、昨年度までに作製した「解糖系(大腸菌)」オペロン、「解糖系(酵母)」オペロンに続いて、本年度は、「非メバロン酸経路(大腸菌)」オペロン、「酵母メバロン酸経路」オペロンをOGAB法により構築した。また、「非メバロン酸経路(大腸菌)」オペロンについては、その完全性を実証するために本オペロンを有するプラスミドを保持した状態で大腸菌ゲノム上に残存している非メバロン酸経路遺伝子の削除を行ったところ、1遺伝子を除き8遺伝子の削除に成功した。
「アントシアニン」 昨年度までに合成に関わる9遺伝子をシロイヌナズナからクローニングし、OGAB法により代謝順に並べた人工オペロンを構築することに成功したが、大腸菌中では中間産物であるナリンゲニン(NAR)までしか検出出来なかった。そこで、ナリンゲニン以降の4酵素(F3H, DFR, LDOX, 3-GT))に集中して、in vitro系で4酵素を混合したところ、NARからアントシアニン(ペラルゴニジン-3-グリコシド)までの合成に成功した。さらに、これらのうち3-GTを除く3酵素の遺伝子を連結した人工オペロンを構築し、大腸菌で発現させることでNARを基質としたペラルゴニジンの合成にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「カロテノイド」 OGAB法を用いた人工オペロンの構築については、予定通り進行している。作製した「非メバロン酸経路(大腸菌)」人工オペロンを用いて、大腸菌のゲノム上の非メバロン酸経路の完全欠損を試みたが、全9遺伝子中、dxr遺伝子のみ完全欠損が再現性良く行われず、この遺伝子についてゲノム上に存在しなければならない未知の機構が存在している可能性が考えられた。この部分が当初の予定のうち実現出来なかった部分であるが、他の人工オペロン構築と、遺伝子欠損については到達できた。
「アントシアニン」 本年度から、アントシアニン合成経路中の後半のナリンゲニンからアントシアニンまでの酵素により、in vitro系においてアントシアニン(ペラルゴニジンー3-グリコシド)の合成が確認され、さらに、大腸菌に導入した人工オペロンにより、in vivo系においてもアントシアニンの合成が確認されたため、当初の計画は概ね達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、「カロテノイド」、「アントシアニン」という2種類の色素生合成経路の人工遺伝子代謝経路の構築を目標に、以下のように行う予定である。
「カロテノイド」 酵母遺伝子によるメバロン酸経路の人工オペロン化を行う。ここでは作成した、ゲノム中の非メバロン酸経路の遺伝子を除去した大腸菌を最大限利用して、大腸菌の非メバロン酸経路人工オペロンプラスミドを、酵母メバロン酸経路人工オペロンプラスミドに完全に置換可能なほどに機能的にさせるべく、酵母メバロン酸経路人工オペロン内の遺伝子配置の最適化を行う。また、上記ゲノム欠損において唯一残存しているdxr遺伝子について欠損が上手くいかない理由を調べ、その結果を非メバロン酸オペロンに反映させる。最終的に、これらの人工オペロンを統合し、さらに人工カロテノイドオペロンを導入することで、非メバロン酸経路とメバロン酸経路の2つの代謝経路によりカロテノイドの生産を行う大腸菌の構築を目指す。
「アントシアニン」 本年度までに、ナリンゲニンからアントシアニン類であるペラルゴニジンまでの合成をin vitroおよびin vivoの両方で成功している。今後は、人工オペロン設計に向けた研究を行う。具体的には、昨年度までに構築したin vitro合成系を利用することで、各酵素と基質の至適量を算出し、そのデータをもとに人工オペロン設計を行う。詳細な条件設定には非常に多くの処理区を用意する必要がある。そこで本研究では、Rondelez班の微小流体技術を利用することで、多くの条件をスクリーニングする。また、in vitroの反応をより生体に近い条件で行うために、陶山班のジャイアントベシクルを利用して、人工生体膜内での酵素反応を行うことで、より詳細な酵素反応のデータを得る。これによって、新たな人工オペロンの設計に結びつける。
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