計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
行動経済学で損失忌避と呼ばれる現象がある。利益と損失の双方の可能性があるリスクのある判断をする時に、損失に比重を置いて慎重に判断する傾向を指す。健常者を対象にPETで脳内ノルアドレナリントランスポーターを定量し、経済実験で得られる損失忌避の程度(利益の金額が少なくとも損失の何倍以上ならギャンブルに参加しても良いと思う金額(倍数))との関連を調べたところ、視床のノルアドレナリントランスポーターの密度の低い人ほど損失忌避の程度が強くギャンブルに慎重であることを見出した。今後、ギャンブル依存の客観的評価や薬物療法開発につながる成果であり、国内外の新聞、テレビ等のメディアで幅広く報道された。さらに不公平に対して私たちはどういう行動をとるかという古くから哲学、心理学、経済学、法学、政治学、生物学など多くの学問領域で扱われてきた問題に対して、健常者を対象にお金を分配する経済ゲームとPETと性格検査を用いた研究を行った。従来、不公平な分配に対して衝動的で攻撃的な人物が報復行為に出ると考えられていたが、正直で他人を信頼しやすい一見、平和的な人物が、不公平に対して義憤に駆られ、個人的なコストを払ってまで報復行為に出るということを経済実験で実証した。実直に報復行為に出やすい人ほど中脳のセロトニントランスポーターの密度が低いことを明らかにした。セロトニンが単に衝動性などと関与しているだけでなく、長期的な戦略的思考に関与することを示唆する成果である。
2: おおむね順調に進展している
須原哲也・分担研究者とはPET研究で連携し、健常者を対象に情動的意思決定における神経伝達物資の役割についての研究はほぼ計画通り進行でき、一部は論文発表した。加藤元一郎・分担研究者とは、意思作用感の判断をさせる心理物理課題を作成し、妥当性を検討中である。
今後、開発した意思決定課題や心理物理課題と脳データ(MRI)との対応を検討したり、精神・神経疾患へ応用していく。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
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