研究領域 | 予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用 |
研究課題/領域番号 |
23120010
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
木村 實 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (40118451)
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研究分担者 |
春野 雅彦 独立行政法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (40395124)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経科学 / 生理学 / 意志決定 / 大脳基底核 / 扁桃体 |
研究実績の概要 |
以下の4つの項目について研究を推進し、成果を得た。 1.複数のニホンザルが同時に参加して行う意思決定課題での行動解析:2頭のニホンザルが対面状態で、報酬確率の異なる2つの選択肢の中から1つを、報酬履歴から推定される予測にしたがって意思決定する課題を完成させた。25年度には特に、行動反応時間、眼球運動、予期的な報酬探索(anticipatory licking)を指標に、自己の過去の選択とその際の報酬の有無(報酬履歴)を基に選択肢の価値を推定し、価値の高い選択肢を選択していることを確認した(Enomoto et al., 新学術領域会議、平成26年12月、で一部報告)。 2.サルの後部髄版内核を構成する正中中心(CM)核の行動、学習における役割:報酬価値の異なる左右のボタン押しを視覚の教示によって行う課題をニホンザルに行わせた。CM核の細胞は、価値の高い選択肢の教示を期待して待っている時に、期待と異なる価値の低い選択肢の教示があると、特に強い活動を示し、行動バイアスの補完機能を担うことを明らかにした。(Minamimoto et al., 雑誌論文欄③)。 3.アルコールの習慣的摂取が線条体のセロトニン2C受容体のRNA編集に依存することの発見:マウス(C57BL/6J)に3週間にわたってアルコールを含む空気を吸引させ、水に比べてアルコールを好む、習慣的アルコール摂取動物モデルを作成した。側坐核、背側縫線核においてセロトニン2C受容体のRNA編集頻度が増大することを見出した。(Watanabe et al., 雑誌論文欄①)。 4.ヒトの脳機能イメージング研究によって、人間の社会的な個性を表す自己と他者の間不公平を嫌う程度に扁桃体、腹側線条体系が関与することを明らかにした(Haruno et al., 雑誌論文欄②)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他者との競合や協調、友愛などを必要とする意思決定の脳メカニズムと計算過程を明らかにする研究は、近年高い注目を集めており、ヒトを対象とする行動・心理学研究や脳機能イメージング研究が増えている。一方、サルを対象として神経回路メカニズムを調べる実験研究は独創性が大変高く、本研究課題においても実験系を確立するまでに予定以上に時間を要したが、25年度に確立することができた。従来の研究も参考に、これらのメカニズムにおける扁桃体、腹側線条体、中脳ドーパミン系の役割に焦点を当てて、サルの行動データを定量的に検討することによって、相手の行動をどの程度推定しているか、報酬を予測しているかなどを客観的に導き、意思決定の脳メカニズムと計算過程を追究している。 他者がいない環境での意思決定の神経回路基盤を調べる研究も並行して実施しており、ドーパミン細胞の中脳での部位と活動の特性、その主要な投射先である背側線条体の神経細胞による長期的な報酬予測、行動選択評価、線条体におけるセロトニン2C受容体のRNA編集等に関する独創性とインパクトの高い成果を挙げることができている。 これらの実績を総合的に評価すると、当初の予定より遅れている部分はあるものの、研究課題の遂行の点では高いレベルで達成されていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の実績に基づいて研究計画を推進していく。特に、自己と他者が関与する状況における意思決定の脳の神経回路メカニズムと計算過程を明らかにする研究については、当初予定より少し遅れているが、当初予定よりも優れた実験系を確立することができたので、結果的にはポジティブに受け止めている。他者のいない環境での意思決定における、視床CM核から線条体への投射系についての研究も独創性の高い成果が得られており、今後さらに発展させていく。
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