計画研究
本研究の目的は、イオン液体・双性イオン液体・溶媒和イオン液体・水和融体・深共晶溶媒などの多種多様な新奇液体材料群「活イオン液体」の、木質高分子(セルロース・木材など)や生体高分子(タンパク・細胞・組織など)、薬用有効成分に対する「溶解能」を網羅的に調査し、各溶解現象における「活イオン」を見出すことである。R5年度は、多種多様な活イオン液体について、木質高分子や生体高分子の溶解性を調査し、イオンの化学構造や共溶媒としての分子性溶媒が各溶解性に及ぼす効果の解明に取り組んだ。1-エチル-3-メチルイミダゾリウム酢酸塩(EmimOAc)は、リグノセルロースの溶解性に優れたイオン液体であり、DMSOを共溶媒とすることでその溶解能がさらに向上する。特に、EmimOAc:DMSO=1:1.5(mol/mol)の混合比が最もセルロースの溶解性に優れ、広葉樹よりも針葉樹を比較的よく溶解するが、同じ広葉樹でもシラカンバよりもミズナラをよく溶解するなどの違いがあることを明らかにした。また、双性イオン液体の構造因子(カチオン・アニオン・スペーサー長など)がセルロース溶解性に及ぼす影響を解明した。EmimOAcのようなイオン液体の生体毒性を下げる分子設計を施した双性イオン液体に、水やDMSOなどの分子性溶媒を組み合わせた共溶媒系(∴活イオン液体)について、タンパク・細胞・組織に対する“適度な”溶媒和と、関連する凍結保護能力を評価した。双性イオン液体そのものの化学構造だけでなく、共溶媒の適切な組み合わせにより、既存の凍結保存剤に匹敵する効果を発現することを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
イオン液体や双性イオン液体などの塩と分子性溶媒からなる共溶媒系(∴活イオン液体)について、用途に応じた機能を高めるために最適な混合比率や塩の構造を決定した。多様な木材を対象とした溶解性試験の結果から「なぜ樹種間で溶解性が異なるのか」という学術的な問いを見出し、また、細胞・組織の凍結保存剤としての利用可能性を創出するなどの成果を得た。一方で、本研究の要である諸溶解現象に関連した「活イオン」の直接的な定量には至っていないことから、「活イオン液体の科学」に参画している他計画研究班との連携に基づいた新規分析法の早期確立が課題である。ただし、上述の成果に加えて、次年度(R6年度)以降に実施を予定していた「触媒」としての活イオンに関連した成果も既に得られてることから、研究計画全体としては当初の計画以上に進展していると考えられる。
R5年度に引き続き、「活イオン液体の科学」に参画している他計画研究班との連携を深め、木質高分子や生体高分子を対象とした溶解現象における活イオンの定量法の開発に従事する。また、R5年度に良好な成果を得た「細胞・組織の凍結保存剤」に関連するライフサイエンス分野では、新興液体材料群である活イオン液体における「活イオン」の概念が未だ不明瞭である。そこで、R6年度は基礎研究の観点からその定義を明確にするとともに、さらなる応用展開に取り組む予定である。R6年度は、当初の研究計画に沿って、有機化学反応の「触媒」としての活イオンに関する基礎・基盤研究を遂行する。具体的には、イオン液体や双性イオン液体などの“塩”について、目的とする主反応を高選択的に促進するための触媒設計指針を確立するために、諸反応の触媒機構の解明を試みる。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (40件) (うち国際学会 18件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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