計画研究
本計画研究の内容は、計画(A)「基礎理論」、計画(B)「現象論から定量的記述へ」、計画(C)「物質設計」に分けられる。本年度は計画(A), (B)に取り組み、具体的に以下の成果を得た。(1) 拡張多極子の枠組みに基づいた理論解析により、磁気トロイダル単極子を伴う反強磁性秩序状態が示す新しい時間反転スイッチング応答を明らかにした。具体的には、電場を印加することで磁気渦構造が誘起されること、磁場を印加することで回転歪みが生じること、両者を同時に印加することでキラリティが現れることをミクロな模型解析により示した。また、こうした磁気トロイダル単極子を内包する反強磁性体候補物質の理論提案を行った。(2) 二次元三角格子上における非整合波数3重q四極子秩序に関する古典モンテカルロ解析を行った。四極子のボルテックスと半ボルテックスからなる格子が温度とともに変遷することや、非整合波数秩序相近傍に現れる部分秩序状態への転移のユニバーサリティクラスがAshkin-Teller模型の臨界線のものであることを見出した。また、カイラル秩序状態における電流誘起磁化の数値解析を行い、電流誘起磁化の温度依存性の起源について解析した。(3) 第一原理計算により化合物の多極子秩序を導出するために、多極子感受率の計算プログラムを整備した。動的平均場法により計算されるスピン・軌道感受率を多極子の完全基底で表現することで、電気・磁気トロイダル多極子も含むすべての拡張多極子の揺らぎを網羅的に計算することが可能となった。(4) アシンメトリ量子物質の取り扱いを念頭において、有効模型の対称性を取り扱うコードの整備を行った。さらに、磁性体において有効模型で磁気秩序を扱う上で効果的な模型構築の方法を提案した。また、強相関系の計算を効率的に行うため、クーロン相互作用のパラメータを導出するコードの汎用化も行った。
2: おおむね順調に進展している
計画(A)基礎理論については、実際の化合物や測定を念頭に、多極子秩序における交差相関応答や秩序状態の解析を着実に行っている。計画(B)については、多極子感受率や結晶の対称性を考慮に入れた有効模型の計算コードの整備が進んでいる。よって「おおむね順調に進展している」と判断できる。
計画(A)については、引き続き多極子秩序と交差相関応答に関する基礎理論の構築を行っていく。特に、実験グループ(A01・A02)との連携を強化していきたい。計画(C)の物質設計に向けて、計画(B)の定量計算法の整備を引き続き行う。次年度中に実際の化合物における多極子揺らぎや交差相関の定量計算まで進めたい。
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