研究領域 | 天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン |
研究課題/領域番号 |
23H04890
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丹羽 節 九州大学, 薬学研究院, 教授 (30584396)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 有機化学 / 芳香族ラジカル / アリール化反応 / トリアゼン |
研究実績の概要 |
本学術変革領域研究は、天然物の生物活性データを基に深層学習技術によって構築される化合物潜在空 間を活用することで、新しい生体機能解明や医薬・農薬シーズに結び付く画期的生物活性分子を効率的に開発することを目指している。その一翼として、潜在空間から提唱される分子の有機合成を通じた検証が不可欠である。しかし、天然物ライブラリを起点とした解析を行うことから、提唱される分子の化学構造が複雑になり、それらの合成に多大な労力と時間を要する可能性が高い。そこで本研究では、複雑な化学構造を持つ化合物群を効率よく得るための有機合成戦略として、すでに複雑な化学構造を持つ入手容易な化合物資源の精密変換により、新規複雑化合物を短工程で得る手法の確立を目指す。具体的には、天然物などの生物活性化合物に広く見られる酸素官能基や窒素官能基などを配向基として活用し、低極性部位を精密変換する手法の開発に取り組んでいる。本年度は以下の2つの方針で反応開発を進めた。まず、トリアゼンを起点とする反応性化学種の発生法の開発に取り組んだ。その結果、光照射条件を工夫することで芳香族ラジカルを発生させることに成功した。本手法は極性溶媒中でも実施可能であり、極性の高い分子の変換への応用に向けて検討を継続している。これと並行し、有機遷移金属錯体の求電子的活性化に基づく穏和な変換法の開発を進めた。その結果、カルボニル基の隣接位のアリール化が効率よく進行する反応条件を見出すに至った。同様の変換は知られているが、一般に強塩基性条件が必須であり、生物活性分子に広く見られる水酸基などの酸性官能基は共存できないという制限があった。本研究成果はこのバリアを除去しうるものであり、今後本手法の実用性を精査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑な化学構造を有する化合物資源の精密変換に資する有機反応の開発を進める中で、二つのアプローチにおいていずれもその端緒となる成果を得ることができたことから、概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでに見いだした化学変換法について、適用範囲等を精査することで、本研究目的への適用可能性を評価するとともに、それぞれの反応機構解析を行うことで、化学変換のさらなる多様化を図る。これと並行し、潜在空間から提唱される分子の合成に取り組む。
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