研究実績の概要 |
本研究では、神経回路の自己組織化原理の解明のため、我々が近年提唱した「リバースエンジニアリング」手法に基づき、様々な生物種の神経活動データを統一的に説明・予測可能な普遍的な生成モデル「基盤脳モデル」を創出する。この基盤脳モデルは自由エネルギー原理に従う脳型人工知能であり、原理的には、様々なタスク下の神経活動や行動を予測できると期待される。予測が可能であるかをテストすることで自由エネルギー原理や能動的推論、ベイズ力学の妥当性の検証を行い、予測と行動の統一理論の構築を目指す。 初年度である本年度は、主たる業務として研究実施体制の構築および基盤技術の整備を行なった。「統一理論」領域の目標達成には、実験班が取得する神経細胞の活動データから神経回路がどのように外界を知覚しているかを表す生成モデルを推定する必要がある。我々が示した標準的な神経回路の活動・可塑性と部分観測マルコフ決定過程(POMDP)の下での変分ベイズ推論の等価性に基づき、神経活動データから神経生理学的に妥当なコスト関数を計算し、それと等価な自由エネルギーを与える生成モデルをリバースエンジニアリングするプログラムを実装した。 また得られた生成モデルと自由エネルギーから理論的に予想されるシナプス可塑性の式を導出し、神経回路の自己組織化(学習)の予測を行うプログラムを実装した。本手法をラット大脳皮質由来培養神経回路の活動データに適用し、培養神経回路の自己組織化を定量的に予測できることを示すことで、自由エネルギー原理の実験的検証を行い、論文で報告した(Isomura et al., Nature Communications, 2023)。
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