研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
24101002
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
常木 晃 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70192648)
|
研究分担者 |
西山 伸一 中部大学, 人文学部, 准教授 (50392551)
大沼 克彦 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 教授 (70152204)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 現生人類の拡散 / 南イラン / 中期旧石器時代 / ザグロス山脈 / アルサンジャン / 後期旧石器時代 |
研究概要 |
本計画研究では、人類史上の最初の大きな転換点となった現生人類(ホモ・サピエンス)のアフリカからの拡散というテーマについて、現生人類が出アフリカ後に最初に到達した西アジアに焦点を定め、最近提唱され始めている東アフリカからアラビア半島先端経由で南イランに上陸したとする新ルートとその後の現生人類の東西への拡散という課題の検証を目指しています。そのために本計画研究では、1970年代に日本の調査隊によって発見され、2011年より本計画研究の代表者が調査を一部再開したイラン南部アルセンジャン地区に所在する中期旧石器時代(10万年~3万年前)以降の遺跡の本格的な現地調査(発掘・詳細踏査・測量・環境調査など)を実施し、10万年前以降の南イランでの人類そのものの在り方を具体的に復元し、現生人類の拡散問題に解答を見出していきます。 平成25年度には、平成24年度に引き続きアルセンジャン地区の先史時代遺跡調査を4月~5月に実施しましたが、イラン政府との話し合いで、平成25年度の現地調査は、旧石器時代以降のタペ型遺跡の踏査を中心に行うこととなりました。旧石器時代に関しては、これまでのA5-3(タング・シカン)洞窟の発掘調査で出土した遺物の整理研究を中心に実施しています。石器研究の結果、A5-3洞窟が中期旧石器時代~後期旧石器時代の長期にわたる文化層を有していることが確実となりました。動物骨および土壌サンプルに基づく14C年代測定と光ルミネッセンス年代測定の分析も行われ、同洞窟の中期旧石器時代層の中層は少なくとも51000年~50000年前に遡ること、後期旧石器時代の始まりは紀元前34000年前後まで遡ることなどが判明しています。 9月には北東イランにおいて1970年代に東京教育大学が実施し、イラン国立博物館に所蔵されているタペ・サンギ・チャハマック出土の遺物の整理研究も実施しています。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の調査成果は予想をはるかに上回るもので、中期旧石器時代の水場遺構の検出や、中期旧石器時代から後期旧石器時代への移行期ともいえる文化層を発掘調査できたことは、ホモ・サピエンスの拡散問題の解明に、大きく貢献する可能性が高まりました。ところが平成25年度のアルサンジャン地区調査については、イラン政府から、A5-3洞窟遺跡の発掘調査ではなく、地域研究のための踏査を行うよう要請を受けましたので、急遽タペ型遺跡の総合踏査に調査項目を切り替えて現地調査を実施しています。A5-3洞窟の成果については、イラン現地で出土遺物の整理研究を行うとともに、洞窟各層から採取した土壌サンプルと動物骨および炭化物サンプルに基づいて、日本において光ルミネッセンス法と14C年代測定法による中期旧石器時代~後期旧石器時代の詳細年代測定を実施しました。また水場遺構から採取した土壌の珪藻分析を行い、旧石器時代に水が溜まっていたことが確実となっています。 現在は中期旧石器時代の石器群の出自およびその全体構成、後期旧石器時代の石器群との関係、中期旧石器時代のさらなる絶対年代測定、動植物などの調査研究が精力的に実施されており、中期旧石器時代の南イラン・ザグロス山脈中での人々の生活の様相と、その出自について少しずつ判明してきています。残念ながら人骨資料がいまだ得られていないので、中期旧石器時代の南イランの人々がホモ・サピエンスなのかネアンデルタール人なのかに関しての結論は持ち越しています。しかしながら、石器群の出自から、ある程度の回答を見出せる可能性が高まっています。これまでの研究成果につき、雑誌論文および概報として出版する準備を現在進めているところです。
|
今後の研究の推進方策 |
現地調査の実施が本計画研究の成否を決定するといってよく、平成24年度は十分すぎるほどの調査が実施できましたが、上述のように平成25年度の中期旧石器時代調査は、イラン文化財当局の要請で、新石器時代以降の遺跡踏査に調査項目を変更せざるを得ませんでした。アルサンジャン地区での調査そのものについては、MOUに基づいてA5-3(タンゲ・シカン)洞窟遺跡の調査を継続するとともに、他の中期旧石器時代~後期旧石器時代の遺跡の踏査も進め、さらに新石器化までの地域の発展の様相を地域研究として実施できないか、現在イラン政府と話し合っています。 ホモ・サピエンスのアウト・オブ・アフリカ後のアラビア半島経由でのイラン上陸といういわゆる南ルート説の検証が本計画研究の重要な目的の一つでもあり、アルサンジャンの調査とともに、アラビア半島東端部での中期旧石器時代遺跡の調査研究も視野に入れる べきであるかもしれません。たとえばアラブ首長国連邦のジャバル・ファヤ遺跡からは、東アフリカに起源をもつと考えられる中期旧石器時代の良好な石器群が発見されており、南ルート説の重要な根拠となっているからです。南イランへのルート上の中期旧石器時代 遺跡、およびイランからのホモ・サピエンス拡散に関わる後期旧石器遺跡についても、調査研究を進める必要があります。これについては、南イランからザグロス山脈を北西方向に北上した位置にあるイラク側ザグロスのクルディスタン地域で、私たちはすでに先史時代遺跡調査を始めており、同地域の先史時代遺跡調査・研究の進展が、ホモ・サピエンスの西への拡散問題に答えを与えてくれる可能性もあります。そうした展開も視野に入れつつ、本プロジェクトで実りある成果を得られるように、鋭意努力していきます。
|