研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
24101003
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
丹野 研一 山口大学, 農学部, 助教 (10419864)
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研究分担者 |
山根 京子 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (00405359)
河原 太八 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20115827)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | デュラムコムギ / 古代コムギ / 西アジア / 遺伝資源 / 考古植物 / 品種改良 |
研究実績の概要 |
古代から現代まで食糧の代表格でありつづけたコムギ類を中心対象として、食の変遷と農耕起源を考察するためのデータ蓄積を行っている。本年は、国内初となるデュラムコムギの早生系統の育成に成功した。スパゲティなどパスタ用小麦は国の農業試験場が本年に登録出願したが、それまでは国内品種がなかった。その国農試が結局開発できず、しかし国内生産のためには避けて通れない「早生化」を、本研究では古代コムギの研究成果を用いてはじめて作出に成功した(2016年3月に日本育種学会で発表した)。現在F5世代であり登録のためにはまだ年月が必要であるが、早生・半矮性・白粒型黄色子実色といった主要形質をすでに遺伝固定した。これらにより赤かび病・穂発芽といった重大病障害が国農試の品種よりも格段に優れる結果を得ており、早生化が必要不可欠と指摘されてきたパスタ用コムギで事実上の初といえる国内実用系統を育成した。本成果は西アジアの古代文化の研究成果を、現代日本の市民レベルの経済効果にまで波及させるものであり、本領域の掲げる「西アジア文明学の創出」に合致する理想的な成果と考えている。 出土植物の同定研究では、教員学生計9名と顕微鏡および出土資料・標本が27㎡にある中で同定していたものが7月から実験室を貸借でき、11月からパートを雇用できて本格作業ができるようになった。ハサンケイフ遺跡の種子同定を終了し樹種同定を開始し、次年度の国際学会での口頭発表演題に採択された。農耕開始期にありながら農耕生活を選択しなかった異例の遺跡であることを明らかにした。 栽培試験は、アインコルン栽培種、スペルタ、四倍性種計約250系統について栽培データを収集した。四倍性種の製粉性に関する遺伝子の遺伝子間領域について塩基配列をはじめて決定し、出土コムギの品質を調査するための分子マーカーを作成した(育種学会中部支部会で優秀発表賞を受賞した)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
通常、品種改良は早くても10年以上の年月がかかり、また新規作物では年月をかけても有望系統は得られないことがある。しかし、本研究では、国内で待望されていたパスタ用のデュラムコムギにおいて、当初は将来になるだろうとしていた実用系統の作出に成功した。本育成系統は、梅雨入り前に収穫が可能なパンコムギ並みの早生であり、子実色の黄発色も良好でかつ耐倒伏性があり、赤かび病と穂発芽にやや強い耐性があるなど、本来ならばそれぞれの形質の導入育成を個別に行い何十年もかかる育成を、古代コムギの遺伝資源調査を行ったことで極めて短期間で成果を上げることができた。すでに圃場を見学した実需者からは国の育成系統を見た上で、本育成系統をすぐにでも生産に移したいと非常に高い評価を得ている。将来の国内のデュラム育種が本育成系統をベースにして行われることが確実であり、また東アジア各地の気候下でもおそらく利用可能であることを考えても、派生する経済効果は非常に高いといえる。西アジア古代文化を見直して現代社会に活かすことをテーマにする本領域研究において、植物学的立場から発揮される最大級の成果が得られていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本領域研究はH28年度に領域全体の期間が終了するが、植物を担当する本研究課題については、代表者丹野が期間中に育児休業をとったことから1年間の期間延長となりH29年度まで研究を継続する。このようなことをふまえ、H28年度には領域全体との研究連携を密にして、とくに2017年3月に計画しているシンポジウムに合わせて西アジアの古代文化と現代日本の社会・文化との接点をより明確にしてゆく議論に努めたい。これまで行ってきた個別の研究項目についてを継続する。すなわち遺伝資源の形質調査としてH28年度はアインコルン栽培種を圃場調査する。また、新たに分譲導入したアインコルン野生種、四倍体コムギ各種、スペルタコムギについて増殖を行っているので、これらを次作期に調査する。遺跡から出土した植物遺存体について次世代シーケンサーを用いた直接的ゲノム分析をH27年度から開始したが、これを継続する。遺跡出土植物の同定は、ハサンケイフ遺跡とデデリエ遺跡を中心に行う。一昨年度からとくに力を入れているデュラムコムギの品種育成について、これを継続する。
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