最終年度にあたり、今年度は①これまでの成果を総括するとともに、②申請時に掲げた3つの課題のうち残された「周辺アッカド語が言語ではなくalloglottographyであるという学説の妥当性を検証し、周辺アッカド語の本質を解明する」という課題に取り組んだ。 ②に関して、12月6日に「ヘテログラムを問い直す」と題するワークショップを開催した。漢文訓読がしばしばヘテログラムないしalloglottographyの典型的事例とされるため、今回はとくに漢文訓読の専門家を交え、日本語で議論を行った。その結果、次のような理由から本研究班はカナン式アッカド語をあえてalloglottographyとして説明するのは不自然だという結論に達した。 a. 漢文訓読がalloglottographyに該当しないことからも分かるように、alloglottographyは非常に稀な現象である。 b. 他方、混成言語の事例は数多く存在する。さらに、一般に同系言語間が接触し、長期間にわたって二言語併用が続くと、拘束形態素や複雑な活用の借用が起きやすいことが知られる。したがって、カナン式アッカド語は混成言語として十分説明のつく現象である。 c. 当該学説では、表語文字の一部と表音文字の一部とが融合して一文字を形成することになるが、表語文字と表音文字の融合は他に例がなく、蓋然性が極めて低い。 ①に関しては、Springer社からAncient West Asian Civilization: Geoenvironment and Society in the Pre-Islamic Middle Eastと題する共著書を出版したほか、3月3-4日に開催された最終公開シンポジウム「西アジア文明学の創出2:古代西アジア文明が現代に伝えること」で「西アジアにおける言語表記:その先進性と普遍性」と題する発表を行った。
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