研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
24101011
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
安間 了 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70311595)
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研究分担者 |
高橋 学 独立行政法人産業技術総合研究所, 活断層・火山研究部門, 上級主任研究員 (20357370)
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究高度化支援センター, 助教 (50569283)
昆 慶明 独立行政法人産業技術総合研究所, 地圏資源環境研究部門, 研究員 (80709634)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 環境変動 / 環境動態 / メソポタミア粘土板 / 自然災害 / 火山 / 塩害 / 透水性 |
研究実績の概要 |
今年度の交付申請書にあげた4つのテーマについて研究実績を示す。(1)発掘サイト近傍での第四紀古環境変動の解明:イラク・スレイマニヤ北部の発掘サイト近傍で古環境・地形・地質調査を行った。調査の模様を新学術領域研究ニュースレターVol. 5, 7-10で詳細に報告するとともに、研究成果をAl Rafidan vol. 36に発表した。また、研究分担者の産総研・昆氏、地球研の申氏らとともにメソポタミア粘土板から環境変動指標を探すべく、薄片観察・粒度・組成分析をおこなった。(2)西アジアにおける現在の環境動態の解明:イラン4箇所、イラク1箇所、トルコ3箇所で毎月の降水採取を開始した。また河川水と河川堆積物の採取を各地で行った。これまでに採取された試料を回収し、研究協力者の同志社大学・横尾らとともに分析を進めている。(3)西アジアに分布する火山の噴火産出物の調査と年代測定およびテフロクロノロジー適用の可能性の探求:研究協力者の地震研究所・折橋氏、筑波大学学生の潮見らとともにトルコ・カッパドキア地方の火山・凝灰岩の地質調査を行った。調査の模様は新学術領域研究ニュースレターVol. 5, 1-6で詳細に報告した。潮見は卒論で凝灰岩のU-Pb年代を測定・報告した。(4)西アジアにおける塩害の実体と塩類風化のメカニズムの解明:イラク・スレイマニヤ北部の発掘サイト近傍で、炭酸塩膠着物質の分布状況を調査した。また、分担者の産総研・高橋氏を中心として、カッパドキア産凝灰岩類について地中水の移動に関する基礎的資料となる透水性についての実験を行い、CTによる微少間隙構造の可視化を行った。6月28日、29日には新学術領域研究全体シンポジウム「西アジア文明学の創出」を共同開催し、本研究課題は「西アジアの地史および文化史における古環境・古気候変動」セッションを担当した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度までに構築した海外研究協力体制が順調に機能し、西アジア各地で降水・河川水の採取が順調に行われている。7月にはAksarayとNevsehir大学の研究協力を得て、カッパドキアの大規模な硅長質凝灰岩をもたらした大噴火イベントについて現地調査を行った(現代文明の基層としての古代西アジア文明ニュースレター、5巻, 1-6ページに報告)。採取した試料についてU-Pb年代測定を行い、噴火年代を高精度で決定するとともに、マグマは中央アナトリア地塊の部分溶融の影響が大きく見られることを明らかにした。8月には懸案であった考古発掘がイラク・スレイマニヤで始まり、9月にはこのサイト近傍での古環境調査を推進することができた。この調査の様子は、現代文明の基層としての古代西アジア文明ニュースレター、5巻, 7-10ページに報告するとともに、研究成果をTsuneki et al. (2015), Al-Rafidan, 36, 1-50およびAnma, R. (2015), Al-Rafidan, 36, 51-53にまとめて公表した(研究発表欄参照)。メソポタミア粘土板から古環境を読みとる試みについては、方向性は変化しつつあるものの、多くの新しい知見が得られた。10月に行ったイランの調査では、古環境変遷解明のための試料として鍾乳石を採取した。また、2014年初頭からイラン各地4箇所で毎月降水を採取していたのを回収した。イランの現地調査を通して西アジアにおける活断層研究の端緒を得た。これらの点では、当初計画以上の進展が見られる。西アジアの大学との国際交流の推進をはかったが、ISの問題などがあり学内のコンセンサスを得るのは困難であった。「考古年代測定法」「西アジア文明学の創出」のプロシーディングを出版する予定であったが、平成27年度に持ち越した。全体としては、おおむね良好に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、採取済みの試料の分析を推進しながら、これまでの研究成果を公表することに全力を傾注する予定である。とくに、「考古年代測定法」「西アジア文明学の創出」のプロシーディングを出版まで漕ぎつけたい。平成27年度夏期にはイラン・クルディスタン大学の研究協力者のShiva Mehrabani氏を招聘し、研究分担者の横尾氏・申氏らとともに西アジア各地で月ごとに採取している降水の分析を進めるとともに、降水の同位体比変化から風成塵の量を推定していく予定である。また、メソポタミア各地で陸上堆積物を採取しており、それらの分析を研究分担者の昆・横尾・申氏らとともに推進し、古環境変動をまとめていく所存である。また河川堆積物と粘土板の組成を比較することによって、粘土板原産地を推定するためのデータベースを構築していく。鍾乳石を使った古環境変動の解明は、研究分担者の堀川氏を中心に薦めていく予定である、研究分担者の高橋氏は、西アジアの岩石や堆積物の透水性についての研究を推進する。研究代表者はこれらのデータを適宜まとめて、西アジアの古環境変動とそれらが西アジアの大地にもたらしたインパクトについてとりまとめる。中間評価の結果、27年度からは西アジアの地震活動も本課題研究に盛り込まれることになった。衛星画像解析ソフトを購入し、西アジア各地の衛星画像から地質・活断層マッピングを行い、これらと組み合わせた西アジアにおける地震のクロニクルの作成に邁進する。
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備考 |
調査報告などが掲載されているニュースレターは以下のサイトからダウンロードできる->
http://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/kaken/contents/publication.html
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