計画研究
今年度の交付申請書の研究実施計画に記載した６つのテーマについての研究実績を示す。（１）西アジアの地震クロニクルの構築：衛星画像解析ソフトを購入し、地質・活断層マッピングをおこなう研究環境を整備した。文献調査を継続すると共に、いくつかの地震の震源決定と震源過程の解析を行った。（２）降水組成の季節変化と環境動態：イランの４都市で降水試料を採取しているShiva Mehrabani氏を招聘し、総合地球環境学研究所において研究分担者の申氏、同志社大・横尾氏らと共に集中的な化学分析・同位体分析を行った。（３）西アジアにおける塩害の実体調査：研究分担者の産総研・高橋氏の協力を得て2014年度までに採取したトルコ・カッパドキア凝灰岩の透水試験やCT画像取得、間隙率分布測定などで新たのデータを得ることができた。これらのデータは塩類風化を含む風化のメカニズムの解明や、岩窟教会遺跡保存のための基礎資料として利用できることが期待される。（４）粘土板胎土から物質科学的に古環境情報を読み取る手法の開発：大阪学院大学・渡辺千香子氏、国立科学博物館の辻彰洋氏らとの共同研究で粘土板胎土から化石種の海産微化石を見いだした。粘土板胎土には河川堆積物のみならず、古い地層から採取した粘土も使われていることがわかった。（５）堆積物にみる第四紀環境変動：海外研究協力者がメソポタミア各地で採取した河川堆積物コア試料を多数入手した。地球研究所の申氏らと化学分析・同位体分析を継続中である。また、2014年にイラン国で採取した鍾乳石試料を使った古環境変動の研究を富山大学・堀川氏と共同で開始した。（６）火山災害とテフロクロノロジーの可能性の探究：カッパドキアやイラン北部の火山地帯において2014年までに採取した火山岩の分析を継続して行っている。また、基盤岩についても年代を中心に新たなデータを集積した。
2: おおむね順調に進展している
ISの勢力拡大や西アジア諸国の政治情勢の不安定化により、当初予定していた塩害や活断層のフィールド調査の予定はキャンセルせざるを得なかったものの、現地研究協力体制を使って、メソポタミアの河川堆積物コア試料を多量に入手することができ、現在も分析が進行中である。また、キャンセルされた調査費を使ってイラン国４都市で降水を採取しているShiva Merhabani氏を招請し、降水の化学分析・同位体分析を強力に推進し、西アジアにおける環境動態の一端を解明することができた。欧米に所蔵されていたメソポタミア粘土板試料を入手し、胎土分析を推進することができた。これらの研究結果をおもに国内の学会（国内で開催された国際研究会を含む）で発表した（研究成果参照）。Springer出版社から出版予定の本「Ancient West Asia Civilization: Geoenvironment and Society in the Pre-Islamic Middle East」に「Paleoclimatic changes and human cultural evolution in West Asia」と題する１章を投稿した。 政情不安定化により、研究の進展が危ぶまれたが、2014年までに構築した現地研究協力体制は予想を上回って順調に機能し、結果として大きな遅れをとることなく、研究はおおむね順調に進展している。
これまでの西アジアの降水や河川堆積物の分析の結果、地表部で析出する炭酸塩（CaCO3）のカリーチが、西アジアの降水や河川水、土壌・堆積物との反応を介したCaやSrの循環に大きな影響を与えていることが明らかになってきた。カリーチの年代測定を試みると共に、炭酸塩に含まれる微量元素や同位体組成に地域性や時代性があるかどうかを明らかにしていきたい。そして、それを西アジアにおける古環境変動解明の手段として実用化することを目指して研究を推進する。これまでの研究の進展から、粘土板胎土から作成時・作成場所の古環境を解明することは非常に困難であるが、原産地の流域を特定する情報は得られるものと期待される。メソポタミア河川堆積物の地球化学マッピングを推進しながら、原産地特定の基礎となるデータベースを構築する。イランでは昨年度から採取地点を４から６地点に増設して月ごとに降水を採取している。これらの試料を用いて、西アジアにおける環境動態について、より詳細な分析を行う。最終年度にあたる本年度は、作業がやや遅れている鍾乳石を用いた古環境変動研究、過去の地震や火山活動の解析と人類の移動や文明の盛衰との関連等の研究を強力に推進し、１，２年を目処に論文化していく所存である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Tectonophysics
巻: 671 ページ: 151-172
doi:10.1016/j.tecto.2015.12.014
Al-Rafidan
巻: 36 ページ: 1-50
巻: 36 ページ: 51-53
http://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/kaken/index.html
