研究概要 |
今年度は、タペ・サンギチャハマーク遺跡の土器の胎土の鉱物学的特徴を明らかにするため、遺跡最下層6層から上層1層におよぶ各時代からの土器の薄片観察およびSEM-EDS分析を行った。最下層6層から3層の土器は、化粧土が施され、表面に彩文が施された赤褐色の土器で、厚手で断面に植物茎の混和材を多量に含む。2層から最上層1層の土器は、化粧土と彩文および本体の色は同様であるが、薄手で混和材が少なかった。 薄片観察から、全ての土器の胎土には、鉱物粒子として多量の石英と、少量のアルカリ長石、白雲母、黒雲母、斜長石、微量の普通輝石、チタン鉄鉱、方解石などを含んでいた。SEM-EDSによる広いビーム面積を利用した粘土の基質部分のバルク組成の分析は、各層からの土器の破片がK, Al, Siに富むイライト質の組成を持つことを示しており、それらの組成の類似性から、一連の土器がほぼ同じ粘土素材から形成された可能性が示された。また、胎土には上述の鉱物粒子以外に、土器の焼成によって形成された焼成鉱物と高温により溶融・分解した鉱物も含まれていた。非常に明瞭に観察された焼成鉱物は透明柱状のアルカリ長石で、全ての土器の粘土の基質部分に含まれていた。この鉱物はイライト質の粘土が高温で溶融して形成される。ムライトやAlに富むスピネルは極めて微小なため、今回は観察されなかった。高温により溶融・分解した組織は、上述の鉱物粒子中の一部のアルカリ長石、斜長石、方解石、普通輝石に認められた。これらの組織から、各層からの土器は900~1000℃の温度で焼成されたと推定された。重要な点は、この焼成温度が最下層6層の土器でも実現されていことで、この遺跡では発展の初期から高度なパイロテクノロジーを有していたことが示唆された。
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