計画研究
本年度は、テル・エル・ケルク2号丘遺跡出土の土器について主に検討した。同遺跡は、シリア北西部に位置し、12層の文化堆積層が確認されている。BC 5800~6600年頃と推定される上位の第1~6層から多数の土器が発見され、今回はそれらを検討した。年代的にはイランのタペ・サンギ・チャハマーク (TSC)東丘遺跡とほぼ同じ時期となる。出土土器は全て暗色磨研土器で、表面は暗色で、断面が黒色あるいは赤茶色であった。粗粒の鉱物粒が特徴的で、輝石と角閃石の鉱物粒を主体にするタイプと多量の多結晶質方解石に少量の石英を伴うタイプの2種類の土器が存在し、2種類は同じ層位から出土していた。これらの鉱物粒の存在は、遺跡周辺の地質状況と調和的である。電子顕微鏡による観察では、鉱物粒の間の粘土部分が高温で癒着する組織が、全ての層の土器で観察された。粘土部分の組成は、ほぼスメクタイト質で、どの土器もほぼ同じ組成であった。各層の土器中の鉱物粒の種類も、それぞれのタイプごとにほぼ同じであった。粉末X線回折では、粘土鉱物のX線ピークは認められず、高温での粘土鉱物の融解が示唆された。方解石の熱分解組織や普通輝石の部分溶融組織に基づいて土器の焼成温度を推定すると、900~1000℃の温度で第6層~第1層の土器が焼成されことが推定された。但し、部分溶融の程度は小さく、高温保持時間は短かったと考えられる。西アジアでは、土器の初現期にあたる紀元前7千~6千年紀頃には、暗色磨研土器とスサ混入明色系土器の2つの系統の土器が造られ、テル・エル・ケルク2号丘遺跡の土器は前者、TSC東丘遺跡の土器は後者に相当する。シリアとイランの初現期の同時期の土器でほぼ同様な高温での焼成が推定されることから、西アジアでは土器の出現当初から高度なパイロテクノロジーで土器が製作されていたことが示唆された。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
シンポジウム予稿集「西アジア文明学の創出2:古代西アジア文明が現代に伝えること」
巻: 1 ページ: 33~38
Precambrian Research
巻: 286 ページ: 337~351
http://doi.org/10.1016/j.precamres.2016.10.003
Annual Report of Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba
巻: 85 ページ: 22~24