研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
24101014
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
|
研究分担者 |
小泉 圭吾 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10362667)
伊庭 千恵美 京都大学, 工学研究科, 助教 (10462342)
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 情報資料研究系, 助教 (10523756)
沼子 千弥 千葉大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80284280)
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 研究補佐員 (80443159)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 保存科学 / 考古科学 / 西アジア考古学 / 文化遺産 / 膠着材 / ELISA / 放射光 |
研究実績の概要 |
西アジア先史時代からプレイスラームの時代までに作られた文化遺産を対象とし、製作技法、材料および現状における保存上の問題について自然科学的に明らかにしようという目的から、3つのテーマを置いて研究を行った。 (1)遺跡における非破壊元素分析および、微小サンプルを用いたラボでの高精度分析:シリア出土の青色アパタイト資料に対し、SPring8とKEKの放射光を用いた各種の高精度微小部分析法による発色機構や個別の劣化機構の解明のための物質、状態分析を実施した。Mnが発色機構に関与していることを突き止め、アパタイト中のCaとどのように置換されうるのか現生の象牙片を用いてラボでの実験を行った。 (2)ELISA法など抗原抗体反応を使った方法やGC/MSを用いた文化遺産を構成する有機物質の分析手法の確立と実践:各地から収集した膠着材原料となる動物コラーゲンを分析し、基礎データバンクを作成した。エジプトなどから出土した彩色文化財に対し、分析を実施した。 (3)遺跡における文化遺産の保存状態の把握、現象の理解:トルコ・カッパドキア遺跡を事例として用い、岩窟や壁画、周辺の地形の変容の事例を、詳細な環境解析等からシミュレーションするとともに、物質の分析結果や状態マッピングとを連動をすることで、総合的な遺跡の保存状態、劣化要因の解明を目指した。2015年9月の調査では、地衣類・藻類といった生物の着生状況との相関も検討した。 本研究で得られた成果は、国内・国際学会、学術雑誌での論文発表により、随時社会に向けて発信するよう試みた。また、筑波大学西アジア文明研究センターのウェブサイトや研究会、シンポジウムを利用し、専門家および一般へもその研究成果を広く公開するよう務めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年10月に一時研究を延期する必要が生じたが、9月までのトルコ等での現地調査が順調に進んでいたことと、H28年3月以降に結果の解析や追加実験、エジプトからの実資料を用いた分析事例の増加などで、最終的には予定通りのところまで順調に進んだ。調査のフィールドとしていたトルコについては、アンカラやイスタンブール、クルド地区での大規模テロが続き、一時期非常に不安定な状態であった。しかし、調査や報告会のために現地に行くときには、状況は安定しており、予定していた調査や研究発表に支障はでなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今まで充分に明らかにされてこなかった西アジア先史からプレ・イスラーム期までの文化遺産の製作技法、材料および保存状態について明らかにしようとするところが、本研究の特色である。得られた結果を実際の西アジアの文化遺産に対する歴史的解釈や保存修復へフィードバックしうるところが、本研究の独創的な点であるので、成果が広く公開されることによって、考古学や歴史学、文献学といった人文科学系にも、各種の先端的な研究手法の有効性を認知してもらうことができるうえ、西アジア世界の文化遺産の有する保存上のさまざまな課題についても、対策を立てる上で貴重なデータを得ることが可能となる。今後は、報告書や論文、一般書作成、研究発表、シンポジウムを通じて最終的に成果の発信につとめ、現在のイスラーム社会に対するイメージを払拭しうる、より包括的な西アジア先史・古代に対する視点を提供することにも努める予定である。
|