研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
24102003
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
中 建介 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (70227718)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 有機無機ハイブリッド高分子 / かご型シルセスキオキサン / ポリイミド / 透明膜 / 有機ヒ素化学 |
研究実績の概要 |
T8かご型シルセスキオキサン(T8)はすべての頂点に有機官能基を持ち、優れた熱的、化学的安定性を持つ化合物である。T8を主構成要素とした主鎖型高分子は他の材料と比べてよりT8の特徴を活かした高分子材料として期待されているが、その研究例はほとんどなかった。このような背景のもと平成26年度までに体対角二頂点に重合性官能基が修飾されたビスアミノプロピルヘキサイソブチルT8 (1)およびビスビニルヘキサイソブチルT8 (2)の開発に成功した。これらの成果を受け、平成27年度は以下の成果を得た。 1)1に対して酸二無水物を加えて重合させ、加熱処理することで透明な主鎖型T8ポリイミド自立膜が得られた。これは室温から400 ℃までにガラス転移点が観測されず、T8によってポリマーの分子運動が抑制されたことがわかった。また硬度測定を行った結果、マルテンス硬さは通常のポリエチレンと同程度の柔らかさを有していることがわかった。T8を主鎖に導入することで耐熱性と柔軟性というトレイドオフの関係にある特性を併せ持つ高分子材料が期待できる。 2)2に対して鎖長の異なるシロキサンモノマーを加えて重合させることで主鎖型T8ポリシロキサンの合成に成功した。得られたポリマーフィルムは優れた透明性を持つことがわかった。 3)上記成果とは別にヒ素を組込んだ新たな元素ブロックの創製も押し進め、以下の成果を得た。不揮発性前駆体であるフェニルアルソン酸を 還元して得られるヘキサフェニルヘキサアルシンをヨウ素溶液と反応させることによりジヨードフェニルアルシンを系中で発生させ、その反応溶液をそのまま求核試薬と反応させることにより、安全かつ簡便に As-C 結合形成するジヨードヒ素化合物系中発生法を開発し、種々のヒ素含有元素ブロックを合成し、その特徴を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初実施計画で予定した平成26年度までに開発したビスアミノプロピルヘキサイソブチルT8およびビスビニルヘキサイソブチルT8を用いた高分子合成とその特性評価に関して、領域内共同研究を進めるとともに、企業との共同研究による元素ブロック高分子材料の実用化研究さらに押し進めることができ、元素ブロック高分子の概念が未来の新素材として有望であることの産業界への認知度を高めることができた。さらに、平成26年度当初に計画した他の置換基を有する二官能性T8モノマーが合成できる可能性を見出すことができた。 当初実施計画で予定していたヒ素元素を組込んだ新たな元素ブロック創出に関してもA03班およびA04班との共同研究によって、強く固体発光する含ヒ素元素ブロックが新たに創出されるなど、予想以上の成果を得ることができた。 以上のことから本研究課題は当初目的と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)コーナーキャッピング反応の際に異なる官能基を導入することで、AB型T8モノマーを開発する。さらに、主鎖型T8高分子におけるT8モノマーの選択範囲を大きく広げるために、一置換ヘプタイソブチルT8以外の例えばシクロペンチル、トリフルオロプロピルまたはメチル基を有する一置換T8を用いたコーナーオープニング法およびそれに続くコーナーキャッピング法の検討によって様々な置換基を有する二官能性T8モノマー合成法の開拓を行う。得られたモノマーを利用したA02班との共同研究によって、優れた材料物性や機能が追究できる元素ブロック高分子材料という学術領域を確立する。 2)開発できた二官能性T8モノマーを用いて種々の高分子合成を行い、領域内共同研究による力学的評価、光学的評価および熱膨張率などの特性を評価することで主鎖型T8ポリマーの特性を明らかにする。 3)有機ヒ素化合物には配位結合を含めたヒ素元素周りの結合角の柔軟性であることをこれまでの研究から初めて認識し、その特徴によって、多彩な種類の結晶多形が安定に存在できることを理解するに至っている。さらに、結晶構造の違いによって、発光特性の制御や、ナノ空孔を有する結晶など多彩な構造機能制御が可能な元素ブロックであることを示している。本年度も、様々な有機ヒ素化合物の合成と、それらの金属錯体を合成し、その結晶多形を精査することで、結晶多形制御による機能制御という新たな学術分野の創出を目指す。
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