研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
24102009
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西野 孝 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40180624)
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研究分担者 |
小寺 賢 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80403301)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子物性 / 高分子構造 / ポリチオフェン / 元素ブロック高分子 / 表面・界面 / 撥水性 |
研究概要 |
元素ブロック高分子の表面・積層界面の構造・物性解析に際して,昨年度に引き続きポリチオフェンを取り上げた。特に高度に構造制御された,分子量を異にするポリ(3-ヘキシルチオフェン)(HT-P3HT)について,表面構造-表面物性の相関について検討を行った。 スピンコート法により得られるHT-P3HTは,チオフェン環を基板に水平に配列する構造 (Flat-on)と垂直に配列する構造が考えられる。微小角入射X線回折により薄膜構造を解析したところ,高分子量のHT-P3HTではFlat-on 構造が優先的であり,低分子量のHT-P3HTではEdge-on構造を有する分子鎖の割合が増加することを見出した。このことから,Flat-on 構造が有利とされる太陽電池利用,Edge-on構造が有利とされるトランジスタ利用が分子量によって制御できることが明らかになった。 また,HT-P3HT薄膜上で水との接触角は95.0°となり,たとえばポリテトラフルオロエチレンよりも極めて高い撥水性を示した。HT-P3HTがフッ素系高分子よりも高度な疎水性を与えた理由としては,表面自由エネルギーに対する高いエントロピー成分の寄与に基づくと考えられた。この点については,田中教授@九州大学との領域内共同研究としての和周波分光赤外線吸収スペクトルの測定結果からも根拠が与えられた。 従来,ポリチオフェンは導電性から積層デバイス利用に注目が集まっている。一方,今回の結果は電気物性のみならず,表面物性の観点からもポリチオフェンは特異な素材となりうる可能性を示したことになり,元素ブロック高分子の可能性の一端を明らかにした。 今後,領域内での共同研究を通して,ポリチオフェンに限らず,さまざまな元素ブロック高分子の表面・界面の階層構造制御と物性発現を取り上げていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
元素ブロック高分子の表面・積層界面の構造・物性解析に際して,平成25年度は高度に構造制御されたポリチオフェンを取り上げ,表面構造に及ぼす分子量効果を明らかにし,ポリチオフェンがテフロンよりも撥水性に優れることを見出した。また,領域内公募班員との共同研究から有用な成果を得ることができ,撥水性の成因をエントロピーに求めることに成功した。これらの成果は目的とする表面物性-構造相関の基盤が順調に構築されたことを意味している。 また,25年度においても領域内での共同研究を8件進行させており,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。これらの学術成果の一部は既に外部発表できる段階に至っている。したがって次年度以降も引き続き,飛躍的な発展を期待することができる段階にあることを意味する。
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今後の研究の推進方策 |
元素ブロック高分子の表面・積層界面の構造・物性解析に際して,昨年度は基板,成膜法を異にするポリチオフェンを対象として,微小角入射X線回折(含:放射光利用),X線反射率,X線光電子分光,電子顕微鏡,原子間力顕微鏡を用いることで薄膜構造を評価した。また,表面物性の解析には動的接触角,粘弾性顕微鏡を利用した。 これらにより,ポリチオフェンがテトラフルオロエチレンを上回る撥水性を示し,表面の構造,特に主鎖・側鎖の配向と分子量の相関を明らかにした。 さらに,班を異にする計画班として,田中教授@京都大(A04)との計算・実験の融合共同研究の継続,異形ケイ素含有ブロック高分子について,中教授@京都工芸繊維大学(A01)との共同研究,菅原教授@早稲田大学(A01)との界面で共有結合を導入したナノ複合材料創製に関する共同研究を継続する。また,昨年度より参入した公募班の中で田中教授@九州大との和周波分光分析を利用したポリチオフェン薄膜の表面構造解析,松川氏@阪市工研とのポリシランの接着利用研究,植村准教授@京都大との多孔中配列高分子の構造・物性,大下教授@広島大とのポリセレノフェンの表面物性について共同研究を開始する。これらの研究連携を図ることで,元素ブロック高分子の積層界面制御に資する予定である。
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