研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
24102013
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中條 善樹 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70144128)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | ホウ素 / 共役系高分子 / 発光性高分子 |
研究実績の概要 |
近年、四配位型有機ホウ素錯体は吸光係数が大きく、優れた安定性や発光特性を示すことから有用な有機色素材料として注目されている。なかでも、ケトイミンホウ素錯体はホウ素-窒素結合の影響で、強い凝集誘起型の発光を示すことやケトイミンの持つ互変異性(エナミノケトン体-エノールイミン体)の平衡がエナミノケトン体の優勢な状態からエノールイミン体の優勢な状態に偏ることなどがこれまでの研究から明らかになっている。一方で、主鎖にケトイミン構造を有する共役系高分子は、ケトイミン部位が互変異性(エナミノケトン体-エノールイミン体)を有するため、高分子主鎖内において線形共役型と交差共役型の電子状態が混成していると予想される。したがって、高分子主鎖にケトイミン構造を有する共役系高分子のケトイミン部位をホウ素錯体化し、互変異性の平衡をエノールイミン型に偏らせることによって、有効に主鎖共役の拡張が可能であると考えられる。また、これまでにケトイミン構造を主鎖に含んだ共役系高分子において、主鎖共役の拡張を明らかにした報告例はなく、本研究では上記の要件を満たすポリマーを合成し、その機構について解明することを目指した。そこで、ケトイミンまたはケトイミンホウ素錯体を主鎖に有する共役系高分子を合成し、光学特性を測定することで主鎖を介した共役系の拡張を評価した。そして、ホウ素の配位による主鎖共役への影響を調べた。その結果、ケトイミンホウ素錯体は強い凝集誘起型の発光を示した。よって、得られるポリマーは優れた高分子系固体発光材料として期待できる結果を得た。さらに、ケトイミン部位は様々な元素と錯形成可能であり、異なる元素と錯形成させることができ、主鎖共役や発光特性の制御、新たな機能性の付与が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
共役系高分子は主鎖共役の拡張によって優れた発光特性や電気的性質を示す。したがって、主鎖共役の効果的な制御法の開発は高分子の優れた機能発現において重要である。互変異性分子は大きく電子状態の異なった異性体同士がどちらも共存する平衡状態を形成している。このことから互変異性分子を元素ブロックとしてそれらを含む共役系高分子は、その平衡状態を固定することによって効果的に主鎖共役が制御可能であると考えられる。我々はこれまでに、ケトイミンホウ素錯体が優れた凝集誘起型の発光増強特性を示すことを報告している。さらに、単結晶X線構造解析によってホウ素錯体化によりケトイミン部位がエナミノケトン型の電子状態から、エノールイミン型の電子状態を形成することを明らかにしている。この結果は、ケトイミン含有共役系高分子をホウ素錯体化することによって、主鎖共役がより効果的に拡張することを示唆している。以上のことから、本研究ではケトイミンユニットを元素ブロックとして有する共役系高分子を合成し、ホウ素錯体化を利用してその互変異性構造を固定することで主鎖共役の拡張や制御を試みた。加えて、得られたポリマーの凝集誘起型発光増強特性についても調査した。その結果、本研究テーマの目標であるホウ素錯体を元素ブロックとした共役系高分子の合成を達成した。光学測定の観察から、互変異生体による共役長変化を確認した。以上のことから、目標を達成したといえる。さらに、得られた高分子から凝集誘起型発光性が観られ、固体発光材料など次世代全有機型デバイスへの応用が期待される新規物質を得ることができた。以上の結果から、計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素含有ブロックや、ホウ素クラスターとπ共役系炭素を巧みに組み合わせた元素ブロックは、その高分子化によって優れた発光特性や高い電荷輸送能など興味深い性質を数多く有するようになる。本研究では、ホウ素含有元素ブロック高分子の作製を、理論評価支援研究者との各要素段階での密接な連携によって、共役長やエネルギー移動効率の調節のために、元素の空間的配置や相互作用を予測し、最適と考えられる主鎖型元素ブロック高分子を設計・合成する。また、ホウ素というヘテロ元素に着目することで、新規元素ブロック高分子の合成と機能評価、他班との連携による機能の予測や材料の素子化、情報のフィードバックによる機能の進化というサイクルの確立を通し、元素ブロック高分子材料創出の研究のモデルケースライブラリーを提示する。 この観点から、800 nmよりも長波長領域に強くシャープな発光を有する共役系高分子の合成を目標とする。これを実現するために、高分子状態においてユニット間の立体障害が小さいヘテロ五員環縮環型BODIPY誘導体を高分子ユニットとして選択し、そのホモポリマーを合成することで、さらなる主鎖共役の拡張や発光効率低下の原因である分子内電荷移動(CT)性発光の抑制を達成する。さらに、分子設計の重要な点であるホモポリマー化が主鎖共役の拡張やCT性発光の抑制に与える影響を明らかにするために、モデルポリマーとして立体障害の大きいフェニレンユニットや電子供与性の強いチオフェンユニットとのコポリマーをそれぞれ合成しその光学特性を比較する。目的化合物やモデル化合物を合成しその光学特性を評価する。近赤外発光特性の解明や、優れた近赤外発光特性の発現に有効な設計方針の確立を理論解析研究者と連携して目指す。
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