計画研究
宇宙における重力波発生の物理的過程や発生源となる天体の起源を明らかにするため以下の研究を実施した。(1) 突発的な重力波のX線対応天体を検出するための大立体角X線監視装置の開発:軟X線観測に絞り込み、国際宇宙ステーション共用バスiSEEPを用いて小型・軽量化・低予算化してJAXA宇宙研小規模ミッションに応募したiWF-MAXIミッションは、宇宙理学委員会の審査の結果、プロジェクト化すべき提案として推薦された。さらにコストを下げるためにCCD冷却を機械式冷凍機からペルチエ素子にするための検討を行い、CCDの放射線被曝による劣化への対応方法の検討を進めた。硬X線モニター(HXM)に対しては、信号処理用ASICの改良第2版の放射線耐性やノイズ除去機能などの評価を網羅的に実施した。また、宇宙ステーション以外のプラットフォームとして、超小型衛星などの検討も行った。(2) 重力波源天体の観測:MAXIによる全天監視を継続した。重力波検出通報に対応する全天X線画像の作成や 通常の突発天体検出閾値以下の微弱な変動を詳細に調べるようにMAXI/GSCのデータ解析システムの整備を進めた。LIGO-Virgoから GW150914, GW151226 等の重力波検出の報告を受けてX線対応天体の探索を実施し、その上限値をLIGO-Virgo Circular及び査読論文で報告した。重力波事象GW150914が中質量ブラックホールの合体と示唆されたことをうけ、中質量ブラック候補天体と考えられてきた超光度X線天体が重力波源に進化する確率の検討を行い論文として発表した。定常的な様々な突発X線天体の監視も継続し、発見のATEL, GCN Circular等へ報告して全世界の時間領域天文学コミュニティに貢献した。さらにMAXI/GSCの7年間にわたる観測データを用いた銀河系内X線源カタログの作成を進めた。
2: おおむね順調に進展している
重力波源と関連する天体現象の観測的研究においては、2015年から2016年初めにかけて行われたLIGO-Virgo O1 (Fist Observation Run)において協定に基づき史上初の重力波検出 GW150914へのX線対応天体の探索をMAXIで実施する等の成果を上げた。その後も2016年後半からのLIGO-Virgo O2(第2観測run)への準備を行いつつ、MAXIによるX線全天監視観測に基づく中性子星連星の研究、Fermi衛星、MAXI, CALETを用いたガンマ線バーストの研究なども進めている。重力波のX線対応天体検出を目的とするiWF-MAXIは搭載機器を絞り込みコストを抑えつつ科学成果を目指した提案がISAS宇宙理学委員会の審査によって評価されてプロジェクト化が推薦された。平成27年度はその実現のための様々な検討を進めることができた。特にミッションの成否にかかわる熱設計を進め、機械式冷凍機よりも技術的リスクとコストが低い可能性があるラジエーターとペルチエを組み合わせた放射冷却方式を検討した。ISS上での運用では放射板を日陰に固定できないため、動作温度の最適化が難しく、衛星軌道上での放射線被爆による暗電流増加がもたらす低エネルギー疑似イベントの増加で、設計への具体的な温度要求が決まる。よって今年度はSLCと同タイプのCCDに放射線(軌道上で約10年分に相当)を照射した場合の特性を実験的に調査し、ミッションの軌道やラジエーターへの要求などを明確化することができた。また暗電流対策のためにCCD駆動で対応するため駆動パターンの柔軟性を向上をFPGAの改修のみで実現するなど、設計を順調に進めることができた。
2016後半から2017年初めまでの予定であった重力波観測 LIGO-Virgo O2 (Second Observing Run) は実施がずれ込み2017年半ば以降まで行われる。O2の重力波アラートに対して、重力波源のX線ガンマ線対応天体の探索をMAXIやCALETを用いて精力的に継続する。自動解析システムの改良を進めるとともに、MAXI突発天体発見システムにおける閾値以下の変動に関しても、積極的に公開していくようにする。また、重力波源との関連する可能性があるMAXI未同定突発天体の解明も進める。他にも、MAXI/GSC点源応答関数データベースを用いて、実際に銀河系内X線源カタログを完成させ、今後の多波長同定や光度関数導出につなげること、ブラックホールなど変動X線源の研究を進める。機器開発としては、ISS搭載を目標として広視野軟X線突発天体観測装置の基礎開発研究を進めてきたが、宇宙研の小規模プロジェクトの資金が大幅に縮小されたため、ISSペイロードとして実現することは不可能になった。そのため、本研究で開発してきた軟X線カメラSLCと硬X線モニターHXMは、外国のミッションなど別のプラットフォームでの搭載可能性を探る。超小型衛星も一つの方法ではあるが、中国やインドなどの新興国による比較的大型のX線、γ線衛星ミッションも立ち上がりつつある中で、SLCとHXMをそのまま小規模化したミッションでは競争力に欠ける。一方、可視光とX線に挟まれた紫外線領域では重力波天体における軟X線と共通の物理をプローブできる一方、今までに突発天体モニターは存在せず、絶好の開拓領域であるため、カリフォルニア工科大・JPLと議論を行い、50kg級の超小型衛星による紫外線広域サーベイ計画を発案した。今後、その概念設計を進めていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (27件) (うち国際共著 9件、 査読あり 25件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 17件、 招待講演 4件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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