研究領域 | 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 |
研究課題/領域番号 |
24104003
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小林 聡 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50251707)
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研究分担者 |
山下 雅史 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (00135419)
小宮 健 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (20396790)
藤本 健造 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (90293894)
原 雄介 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (90452135)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | DNA論理回路 / 分子ロボティクス / DNA計算 |
研究概要 |
化学反応回路に関する研究課題として,演算速度の高速化に関する課題と演算素子の再利用性に関する課題に取り組んだ.演算速度を高速化する課題に関しては,核酸類を超高速で操作可能なシアノビニルカルバゾールを含むDNA光クロスリンク反応について機構解析を行った.さらに光クロスリンク反応を組み込ませることで核酸類の鎖置換反応を大きく加速できることを見出した.また,演算素子の再利用性に関する課題に関しては,新しいタイプの化学反応回路として,アナログ計算を行う化学反応素子を提案した.これらの素子は,入力の変化に応じて出力を変化することができ,更に,長時間利用できるという,従来の化学反応素子にない長所を持つ. 反応回路とアクチュエータとのインタフェースを構築する課題にも取り組んだ.まず,架橋部分をDNAで構成したハイドロゲルを利用したり,DNAと共存可能な新規ゲルとしてデンドリマーゲルの開発を目指した.デンドリマーゲルについては,その物性は,ゲル合成時のデンドリマーと直鎖状高分子の比率および濃度に大きく影響を受けることが明らかになった.また,細胞サイズの分子ロボット実機の創製を目指してマイクロスケールでゲルを構築し、環境情報としての分子刺激を受容してゾル化等の応答をさせ、リアルタイムに観察することに成功した. ゾル/ゲルの相転移を繰り返すことで,ゲルが移動する新しい分子ロボットの計算モデルに関する研究も進めた.移動を局所的に制御することを狙い,この分子ロボットをmetamorphic systemによってモデル化し,移動が分散アルゴリズムによって局所的に制御できることを示し、移動速度の上下限を検討した. また,化学反応回路では核酸配列がさまざまな形で干渉するため分子種の個数が組み合わせ爆発する.このような複雑な化学反応系の平衡状態を計算するための一般的な計算手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子反応回路の高速化と素子の再利用性に関する課題については,従来にない新しい進展を得ることができており,非常に順調に研究が進展している.核酸配列の鎖置換反応の高速化に関しては特許も出願している.また,従来のほとんどの反応回路は,入力に対してその出力を計算するのは1回きりであり,再度,別の入力に対して計算を実施することはできない.つまり,入力の変化に応じて出力も変化するような回路の構築は非常に難しい研究問題である.この問題を,アナログ計算素子に着目すること,および,入出力分子の濃度の間の関数関係の成立を「計算」とみなす新しい発想を導入することにより,今回の大きな進展を生み出すことにつなげることができた. また,DNA架橋ハイドロゲルやデンドリマーゲル等を用いた分子ロボットのインターフェース開発については,ゲル生成条件やゲルの物性に関する検討を集中して行い一定の成果を得ることができた.さらに,細胞サイズのゲルによる分子刺激応答に成功し,当初の計画以上の成果を得ることができた. ゾル/ゲルの相転移を繰り返すことで,ゲルが移動する新しい分子ロボットの計算モデルを提案し,移動速度に関する理論的な成果を得ることができた.スライム班との共同研究に進展する可能性のある興味深い成果である. 化学反応回路で用いられている核酸配列はさまざまな形で干渉し合う可能性があり,その反応系を解析することは計算量理論の立場から非常に難しい問題である.今回,平衡状態を計算する問題を一般的に解く方法論を展開できたことは,今後の反応回路の解析の問題に大きな進展を生み出す可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
演算素子の高速化に関しては,25年度に見出した光架橋反応を組み込んだDNA鎖置換反応速度の解析および実験結果について,シアノビニルカルバゾールの導入位置、導入数が与える影響を分析し、実際に論理演算に組み込むことにより,高速な化学反応回路システムの構築を試みる. 化学反応回路の設計論の構築と実装に関しては,酵素を用いた駆動回路として有望な,Displacement Whiplash PCR (DWPCR)反応を用いた回路素子と,25年度提案したアナログ計算素子に焦点を当てて研究を進展させる.実験面では,DWPCR 反応を利用した1分子状態遷移素子を開発し,センサーからのシグナルや検出対象の分子が低濃度の場合でも高速に動作するよう,反応条件の最適化を実施する.そして,開発した状態遷移素子,アナログ計算素子を用いた設計論を構築する.特に,アナログ計算素子については,それらを用いた記憶素子の実現可能性を検討し,より大きな再利用可能な計算システムの実現,およびその設計論を構築することに取り組む.さらに,分子ロボットの制御にこれらのシステムを利用することを検討する.また,振動回路の設計論を構築することも,重要な研究課題である.化学反応モデルとして解釈も可能なpopulation protocolをモデルとして採用し,確率的要素をモデルに組み入れることにより自律的振動生成問題を理論解析することを試みる. また,核酸反応をベースとした情報処理システムを内包したゲルロボットの創製を目指して,アクチュエータとして駆動可能なデンドリマーゲルの合成条件をつめるとともに,DNAの変化や外部刺激によって応答するための分子設計を明らかにする.
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