研究領域 | 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 |
研究課題/領域番号 |
24104005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
萩谷 昌己 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (30156252)
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研究分担者 |
村田 智 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10334533)
浅沼 浩之 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20282577)
菅原 研 東北学院大学, 教養学部, 教授 (50313424)
有村 隆志 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 研究員 (50344221)
宮元 展義 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (80391267)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 分子ロボティクス / ナノマシン / ナノバイオ / ナノ材料 / ソフトコンピューティング / 知能ロボティクス |
研究実績の概要 |
システム設計●萩谷:溶解・再建可能なゲル壁で仕切られたセルによるセルオートマトンの研究を進め、セル間で多様な通信が可能であることを示した。拡散のみ可能なゲルカプセルによるセルオートマトンに関して、光によるフェーズを設け、状態遷移とセル間の通信を比較的単純な反応系で実現した。村田・菅原:セルオートマトンの枠組みでゲルオートマトンをとらえ、実現可能な問題の提案を行った。状態遷移が一度の制約下で実現可能な応用例として、迷路問題と、構造物形成問題を含む同一パターン生成の可能性を検討した。 反応拡散場の実装●有村:DNA反応系を封入可能なマイクロゲルビーズの分子設計を行った。カチオン性、アニオン性ゲルビーズを気液界面上で自己集合させ、六方格子模様に組織化した。ビーズのカプセル部位が特定の蛍光分子のみを透過拡散可能であることを見出した。村田:東北大学川又生吹助教を連携研究者として、バイナリ状態遷移の酵素・DNA反応系による実装を提案、実現性を確認した。単純な論理ゲートをマイクロゲルビーズに内包させた系で状態遷移カスケードを実装できた。ゲル上の格子システムの実装系を構築し、論理演算と隣接セル間の通信を実現した。 ゲルアクチュエータの開発●有村:フェロインを触媒とするBZ反応ポリマーゲルを一元反応場でクリープ移動させる反応条件を見出した。DNA信号を補足するインタカレータ部位を有するポリマーゲルを合成した。宮元:マイクロセル型ゲルオートマトン合成に向け、分散重合法によるゲル微粒子の合成手順を確立した。分子信号増幅機構を持つゲルアクチュエータ開発に向け、メソポーラスシリカ内包ゲルを合成した。浅沼:光応答性Nucleosphereに抗がん剤Doxを取り込ませ、400nmの可視光照射によるDox放出を試み、Nucleosphere崩壊に伴うDox放出を確認した。400nmの可視光照射の有無でガン細胞生存率の優位な差が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
システム設計●萩谷:拡散のみが可能なゲルによるカプセルをセルとするセルオートマトンに関しては、生成と分解が同時に進行する動的な定常状態を利用している。そこで、光によるフェーズを導入することにより、動的な定常状態を必要としない反応系の研究を進め、さらに、カウンタマシンに関する基礎的な研究も行った。菅原:やや抽象度の高いレベルではあるものの、迷路問題にように実装可能な応用例を提示することはできた。実体を有する計算機構であるゲルオートマトンの特性を活かした応用例については、さらなる検討を要する。村田・川又:迷路問題を解くルールについては、実装の方向性が見えている。より一般的なルールについては検討が必要である。 反応拡散場の実装●有村:内部がゾルであるマイクロスケールゲルビーズの分子設計・合成を行い、特性の信号分子のみを選択的に透過拡散させることに成功した。DNA反応系の選択的透過拡散は今後の課題である。村田・川又:分散したマイクロサイズのゲルビーズあるいはごく少数個のセルからなるミリサイズの反応空間について、分子計算の実装可能性が示された。 ゲルアクチュエータの開発●有村:BZ反応駆動ポリマーゲルの一次元運動性は明らかにしたが、環境に応答した異方性を見出すには更なる検討が必要である。宮元:ナノシート液晶を用いる新しい手法によって、光に応答して異方的に変形するゲルアクチュエータの開発に成功した。マイクロセル型のゲルオートマトン合成に向けた複合型ゲル微粒子合成や分子信号増幅機構をもつゲルの合成に着手している。浅沼:光応答性Nucleosphereの抗がん剤キャリアとしての応用と、光照射によるガン細胞の死滅に成功した。Nucleosphereの崩壊も1分程度で実現した。ミリメートルサイズの光応答性ゲルでは400 nmのtrans-アゾベンゼンの吸光度が大きすぎるため光が透過しないという問題に直面している。
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今後の研究の推進方策 |
システム設計●萩谷:光によるフェーズを導入した反応系を詳細化し、実装を目指して定量的なシミュレーションと具体的な塩基配列の設計を進める。セルの変形や溶解、セル中の光やイオンの伝達などを導入し、従来のセルオートマトンを越えるモデルの提案を行い、よりロボットらしいスライム型ロボットを目指す。菅原:ワンショット・ゲルオートマトンを念頭におく、という条件下で、計算世界と物理世界をつなぐシステムの応用例について検討する。計算機構に重きをおいた応用に主眼をおきつつ、有用な応用可能性についても検討する。 反応拡散場の実装●有村: DNA反応系をゾルとして内包したマイクロビーズを自己組織化させ空間的離散化を行う。DNA反応系の拡散移動によりビーズ間での反応系の通信も行う。村田・川又:サブミリスケールのセル空間を実装し、迷路ルールより単純な分子計算を実装することを次の目標とする。 ゲルアクチュエータの開発●有村:ビーズ間でのDNA反応系の拡散速度を光によって制御可能なゲルアクチュエータを分子設計する。マイクロゲルビーズ表面の動的開閉(アクチュエータ性)に光応答性を付与し、反応系の拡散速度制御を試みる。宮元:分散重合法またはマイクロ流路法によって、DNA反応回路やナノシート液晶を内包したゲル微粒子を合成し、そのゲル微粒子を集積化することによって、高性能のゲルアクチュエータやゲルオートマトンの合成を目指す。DNAゲート型無機多孔体を利用した、分子信号増幅機構を持つゲルアクチュエータの開発も行う。浅沼:ミリメートルサイズの光応答性ゲルの制御に、800 nmのパルスレーザーによる二光子励起を検討する。ゲルオートマトンの実装のために必要な人工核酸の合成、およびDNAと直交する人工核酸を用いた論理ゲートを設計する。具体的には光による初期状態書き込みを可能にするケージド核酸の設計と合成を行う。
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備考 |
「日本粘土学会奨励賞」受賞,2014年9月(宮元)
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