研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
24105004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 哲也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (50219896)
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研究分担者 |
家城 和夫 立教大学, 理学部, 教授 (10159577)
磯部 忠昭 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (40463880)
川畑 貴裕 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80359645)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 原子核物質の状態方程式 / 対称エネルギー / 荷電粒子ガス検出器 / 高密度読み出し回路 |
研究実績の概要 |
本研究では、中性子星の基本的な性質を掌る中性子過剰原子核物質の状態方程式(EOS)、その中でも現段階ではほとんど未知である通常原子核密度の約2倍の領域での「対称エネルギー」と呼ばれる項の振る舞いを世界に先駆けて決定することを目指している。そのため、主にアメリカDOE予算を使ってミシガン州立大学のグループと共同で大型のTPC(総信号読み出しパッド数12096)本体の製作を進め、並行してTPCからの信号の処理をする読み出し回路系の開発、整備をアメリカ、フランスの研究グループの協力のもとに進めてきた。ところが、2014年度後半に、これまでに開発してきた回路系に想定外の増幅度不均一性があることが露見した。今年度はこれに対処するため、量産を終えていた回路の手直し作業を優先的に進め、8月初めまでに全回路の改造を終えた。秋口にはTPCのトリガー検出器、試作を進めてきた検出器信号の流れを制御するgating grid回路、それに高速データ処理サーバーを統合した全TPCシステムを宇宙線を使ってテストし、読み出し回路が正常に動作することを確認した。その後10月末に、必要台数の調達がようやく出来たデジタルデータの流れを制御する中核回路MUTANTをも組み込み、TPCを最終設置場所SAMURAI電磁石のすぐ下流に仮置きして、加速器からの2次ビームを使った粒子検出能力のテストを行った。その際、これまで開発を進めてきた動作モニターシステムとデータ解析ソフトウェアを活用して、TPCが安定に動作することを確認した。これらのテスト結果を使い、検出器本体に関する技術論文を準備中である。データの解釈に不可欠な理論計算コードの改良も本新領域理論班の協力で進めることができた。これらの実績をもとに2016年度春のマシンタイムで、本実験の実施が決まり、現在残されたマイナーな問題点の改善に全力で取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度の終わり、正極性の信号を処理する時、AsAdボードの増幅度が想定していたより不均一になるという欠陥が発覚したため、2015年度の予算執行が可能になった早々にフランスの業者に手に入れていた全ボードを送り返し、修理を急ぐことで8月初めには、加速器を使った本実験に向けての準備作業を再開することが出来た。しかし新年度のマシンタイムを決定する段階では、まだこの修理作業が時間内に終わるかどうか不定であったため、同じSAMURAI電磁石の利用を予定している他の実験グループと綿密な協議を繰り返し、安全サイドに立って、総計で13.5日の実施が認められている「高密度中性子過剰核物質の状態方程式」を探る加速器を使った実験を多少不本意ではあったが、当初の計画通り2015年度内に実施することは諦め、2016年度なるべく早い時期に行うこととした。この結果、データ収集が予定より最低1-2カ月遅れることになってしまったが、遅れをなるべく少なくし、本実験後の解析作業をスムーズに行うため、また他の実験グループを説得して、2016年度春のマシンタイムを獲得するために、10月末に、約1日間他の実験と干渉しないパラサイト実験として、磁場をかけられない場所ではあるが、検出装置全体の信頼度テストを核子当たり200 MeVの79Seビームを使って行った。そして、これまでに開発してきた各装置のモニターシステム、オンラインデータ解析プログラム、検出器のトリガーシステム等が正常に動作することを確認した。また収集したデータを使いオフラインデータ解析プロクラムの性能評価も行い、比較的短時間で多重度情報などの抽出ができることを確認した。この結果をもとに、2016年度4月末から全マシンタイムを実施できることが正式に決まり、1月から全装置の設置作業を始めたので、当初計画からの遅れをかなり抑えることが出来たと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に本実験が実施できることになったのを受け、新年度は次のように本研究課題を推進していく。まず4月7-10日にSAMURAI電磁石中に設置したTPCに核子当たり300 MeVの132Snビームを入射し、磁場中ですべてのシステムが正常に動作するかテストを行い、本実験の際にどのような設定条件で各装置を使うべきか決定する。そして改善すべき点を精査し、4月30日から5月6日までに予定されている核子当たり300 MeVの108,112Sn(中性子不足錫同位体)ビームを使った第1シリーズ実験までに解決策を見つけ対処する。第1シリーズ終了後直ちに大雑把な解析を行い、実験方法に問題が無いか綿密に検討し、5月20日から27日までに予定されている核子当たり300 MeVの124,132Sn(中性子過剰錫同位体)ビームを使った第2シリーズ実験に備える。2シリーズ計4組のデータが出そろった段階で正負荷電パイオンの生成比の抽出を理化学研究所の高速計算機サーバーおよび、新規に京大で導入予定の計算機サーバーを使って行い、出来れば秋口に行われる研究会、国際学会で発表出来るよう解析を進める。その際、理論班のシミュレーション結果との対比を行いたいと考えている。TPCの読み出し回路については、現段階での我々の実験目的のためには十分な性能を持つものになってはいるが、設計時に想定していた全ての性能が出ているわけではない。今後の発展的な研究を推進するためにも継続的に回路系の改良を進めていきたいと思っている。
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