研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
24105006
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀越 宗一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00581787)
|
研究分担者 |
向山 敬 電気通信大学, 先端領域教育研究センター, 准教授 (70376490)
中務 孝 独立行政法人理化学研究所, 中務原子核理論研究室, 准主任研究員 (40333786)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 量子エレクトロニクス / レーザー冷却 / 量子多体系 / ボース凝縮 / 超流動 / 中性子星 / 中性子物質 / 理論核物理 |
研究概要 |
中性子星inner crust領域の低密度中性子物質の状態方程式(EOS)を決定する為、s波相互作用している極低温フェルミ原子気体の実現に成功し、フェルミ超流動状態が実現されていることを確認した。またEOS決定へ向け高分解能撮像システムのノイズレベルを大幅に減少させることに成功し、高精度にトラップ中のフェルミ原子気体の密度分布を評価できるようになった。原子数の定量的な評価も重要であり、撮像条件やCCDカメラの仕様を取り入れた高精度な原子数評価が行えるようになった。CCDカメラで得られる原子の密度分布はプローブ光方向に積分された情報だが、逆アーベル変換を用いる事により、元の三次元イメージを再構築できる準備が整った。さらに相互作用しているフェルミ粒子系の温度を測定する為、温度計として用いる原子の導入も行った。 核子密度が高い領域に於いては、s波相互作用のみならず、p波相互作用も重要になってくる。冷却原子系を用いてp波超流動を実現するためにはp波フェッシュバッハ近傍における原子間相互作用パラメータの詳細を知る必要がある。特定の方向のトラップ周波数に共鳴するような周波数で光トラップ強度を変調することで、1軸方向だけ原子の運動エネルギーを増大させ、その運動エネルギーが他の軸方向に移る時間を測定した。運動エネルギーが他の軸に移るのは原子間の散乱が起源であるために、このエネルギーが変換される時間によって弾性散乱断面積が測定できる。この測定によりこれまで不明であった相互作用パラメータを決定することができた。 中性子物質や非対称核物質の状態方程式に実験・観測から制限を与える可能性について理論的な研究も実施した。特に、低エネルギーの電気双極子(E1)共鳴状態のE1強度分布と状態方程式との関係を精密に調査し、安定線から遠く離れた原子核のデータから強い拘束を与える可能性を示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
s波相互作用しているフェルミ粒子系のEOSを冷却原子系で決定するには、大きく分けて①極低温なフェルミ粒子系、②高分解な撮像技術、③温度評価、④データ解析の全てを満たす必要がある。生成25年度の研究により、①は実現された。②においては顕微鏡対物レンズを用いて高分解能、高S/Nで冷却原子の密度分布を評価できるようになったが、最適な撮像条件と実際の分解能の評価が済んでいない。③においては弱く相互作用しているフェルミ粒子系の温度評価はできたが、中性子物質に相当する相互作用が強い領域での評価はこれからである。④においては、逆アーベル変換できるデータ点数が必要になるため、最適なトラップポテンシャル形状を選ぶ必要がある。 冷却原子気体系でp波超流動を実現するには、p波フェッシュバッハ近傍における原子のロス(非弾性散乱)をできるだけ抑えつつ、原子間の弾性散乱を増大させることが必須である。そのためには原子間相互作用パラメータを知り、最適な実験条件を実現することが必要であることから、相互作用パラメータの実験的決定は超流動実現に向けた重要な第一歩である。我々は平成25年度に弾性散乱断面積の測定からリチウム原子のフェルミ同位体についてのp波相互作用パラメータの決定に成功した。リチウム原子気体はp波超流動実現の有力な候補の一つでありながら相互作用パラメータが不明であった。この成果について論文に出版した。 密度汎関数理論による原子核・核物質の研究、および計算コード開発においては進展があった。
|
今後の研究の推進方策 |
逆アーベル変換を行い局所的な原子密度を得るため、最適なトラップ形状を選ぶ。同時に撮像条件の最適化を行う。それらが済んだら速やかに散乱長が発散しているユニタリー極限においてEOSを決定する。ユニタリー極限においては温度計原子なしでEOSが決定できるため、温度計原子の最適化前に行う。ユニタリー極限でのデータ解析中に温度計原子の最適化を行い、ユニタリー極限で温度計原子を用いてEOSを評価し、両者の結果を比較する。温度計原子の妥当性が確認されたのち、有限の散乱長領域(BCS領域)においてEOSを決定し、低密度中性子物質のEOSを構築する。また得られたEOSより中性子星のM-R曲線を計算し、低密度領域で制限を与える。 p波相互作用する粒子系の物理的性質と相互作用パラメータの間の関係を明らかにする。特にp波相互作用系の熱力学的性質を決めるために、p波相互作用エネルギーの測定を目指す。冷却原子系ではp波弾性散乱は前述のように観測されているもののp波相互作用エネルギーはこれまで実験的に測定されたことがない。相互作用エネルギーの測定はp波相互作用系の状態方程式の決定に直結しており、重要な課題である。平成26年度以降はRF分光や解放エネルギーの測定を通してp波相互作用エネルギーの決定を試みる。 核子超流動性を扱うために、対密度を取り入れた密度汎関数を確立し、原子核および冷却原子系への応用を進める。特に、系のバルクな性質を反映する観測量の同定を目指す。
|