研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
24105008
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究分担者 |
原田 融 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (70238187)
中田 仁 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80221448)
飯田 圭 高知大学, 自然科学系, 教授 (90432814)
松尾 正之 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70212214)
巽 敏隆 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40155099)
小野 章 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20281959)
土手 昭伸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (90450361)
木村 真明 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50402813)
中里 健一郎 東京理科大学, 理工学部, 助教 (80609347)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 中性子星 / 状態方程式 / ストレンジネス / 対称エネルギー / 天体物理 / 冷却原子 / 準周期振動 / 有効相互作用 |
研究実績の概要 |
平成24年度は(1)低密度領域、(2)高密度領域、(3)天体物理のそれぞれにおいて次のような成果を得た。 (1)低密度領域では、対称エネルギーと対相関が大きな課題である。新たに開発した半微視的核子間有効相互作用を用いて対称エネルギーに敏感な低エネルギー双極子励起を分析(中田・稲倉)するとともに、中性子過剰Zr同位体の巨大中性子ハローにおける対相関の役割を調べた(松尾)。また、原子核衝突では反対称化分子動力学(AMD)により、破砕片分布の対称エネルギー依存性について研究を進めている(小野)。 (2)高密度領域では、ハドロンと核子・核物質の相互作用の研究を進めた。平成24年度は、核内ハイペロン-核子相互作用の情報を含むΛNN-ΣNN3体系(原田)、反K中間子(Kbar)-核子(N)相互作用情報を含むKbar-pp(山縣-関原)の生成スペクトルを調べるとともに、複素スケーリング法とカイラル理論に基づくKbarN-πYポテンシャルの構築(土手)を行った。またsd核領域のΛハイパー核特徴的な構造(木村・大西・土手)、陽な3体力を取り入れた相対論的平均場理論(大西)についての研究も進んでいる。 (3)天体物理では、コンパクト天体現象と状態方程式の関係が課題である。理論班では中性子星の星振(ずりモード振動)からクラストのずり弾性率と対称エネルギーの関連を研究しており、平成24年度は中性子超流動の効果の研究(祖谷・中里・飯田・親松)、ずり弾性率に影響する原子核の結晶構造・パスタ構造の数値的計算(巽・丸山)を進めた。また時間依存ハートリーフォック理論によるパスタ核生成(飯田)、カイラル模型に基づく中性子星状態方程式構築(中里)、非一様なカイラル凝縮相に関わるニュートリノ過程・クォーク質量効果(巽)・多次元非一様構造(阿武木)、状態方程式データベース構築(石塚)についての研究も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は新学術領域研究の初年度であり、前述のようにそれぞれの課題での基礎的な進展が見られるとともに、研究集会(主催1件、共催1件(国際)、協賛1件)等を通じて、これまで異なるコミュニティを形成していた研究者間の交流により、ひとつながりの研究者集団ができつつある。 例えばキックオフシンポジウムやD01班(理論班)研究会等での発表(大橋)等から、冷却原子系が中性子物質の「量子シミュレーター」となることを原子核物理学・宇宙物理学の研究者が学んだ。ここでの基本的な枠組みは再和による相互作用の置き換え(T-matrix法)であり、原子核物理学の有効相互作用と共通する部分が多い。G-matrix等の有効相互作用理論と3体力の導入は低密度・高密度にまたがる課題であり、様々なアイデアが議論された。微視的理論の結果を反映し、テンソル力効果を含む半微視的有効相互作用は、こうした方向への基盤となろう。低密度・高密度領域での核物質状態方程式は、軟ガンマ線リピーターの巨大フレアに現れる準周期振動として観測される中性子星の星振に影響を与えるため、ミクロ(原子核)とマクロ(中性子星)の物理が協力して研究が進んでいる。 個別課題においても着実な進展・発見がある。例えば低密度領域の課題では、原子核密度の裾野領域で対凝縮波動関数が2粒子結合エネルギーによりほぼ定まるとの示唆が得られており、またAMDにクラスター相関を導入することにより、重イオン衝突からの破砕片分布への対称エネルギー効果をより正確に評価できるようになる。天体物理の課題では、クォーク模型に基づいて状態方程式を調べる上で、カイラル模型(Chiral Quark Meson Coupling模型)において様々な核種の束縛エネルギーを大局的に再現できるパラメータが得られている。 これらの進展から、本計画研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度はそれぞれの課題での研究を進めるとともに、課題間にまたがる理論枠組みの開発を進める。 (1)低密度領域では、引き続き対称エネルギー・対相関を中心に研究を進める。(1a)開発した半微視的有効相互作用と実験データを用いた低励起双極子モードの対称エネルギー依存性の制限、(1b)対相関が支配的な中性子ハローが示す普遍的特徴の発見、(1c)対称エネルギー効果が核破砕観測量に現れる機構、等の研究を進める。 (2)高密度領域では、引き続きストレンジ核の分析を進める。(2a)3体破砕・3体力を取り入れたハイペロンを含む3バリオン系の分析、(2b)開発したKbarN-πYポテンシャルと結合チャネル複素スケーリング法のK-pp原子核への適用、(2c)中性子過剰Λハイパー核構造の分析等をすすめる。またJ-PARCでの実験データが示す内容を検討する。 (3)天体物理では、星振・冷却・相転移についての研究を進める。(3a)カイラル模型・微視的な計算から得られる状態方程式(EOS)・パスタ構造を採用する等、星振からEOS・対称エネルギーの絞り込みを進める、(3b)非一様凝縮相の中性子星冷却過程、および臨界点や相境界近傍の物性に与える影響を調べる、等の研究を進める。 また上記のそれぞれの領域にまたがる課題を進める。(4a)G行列等の手法を用いて、中間子対-核子結合等から現れる3体力を取り入れた状態方程式構築、(4b)量子シミュレーターとしての冷却原子による相図やスピン交換力に起因する新たな凝縮相の分析等の研究を進める。以上の研究を進める上で、公募研究の研究者と協力するとともに、新たに連携研究者として山本安夫氏(理研)、高塚龍之氏(岩手大)、河野通郎氏(九州歯科大)、宮川貴彦氏(愛知教育大)、武藤巧氏(千葉工大)、住吉光介氏(沼津高専)、佐川弘幸氏(会津大)を加える。
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