研究分担者 |
脊戸 和寿 成蹊大学, 理工学部, 講師 (20584056)
玉置 卓 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40432413)
伊藤 大雄 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50283487)
吉田 悠一 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 准教授 (50636967)
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研究実績の概要 |
理論計算機科学で最も権威のある国際会議STOCに3本, 離散アルゴリズムで最も権威のある国際会議であるSODAに3本,などを筆頭に一流国際会議・学術雑誌において多くの発表を行った. 以下では, 代表的な成果をいくつか概説する. (1) 有限体上で定義された関数は, 論理関数や符号を含む一般的な数学対象として盛んに研究されている.そのような関数がある「性質」を満たしているかどうかを, 変数の個数n に関係しない定数の計算時間で判定できるかどうか, という問題は,劣線形時間計算の研究の中心的な課題であり続けてきた. 本研究では,自然な性質のクラスであるアフィン変換に関して閉じた性質が定数時間判定可能か不可能かの簡明な特徴づけを得た (吉田, SODA ’16).この結果は, 既存の (やや複雑な) 特徴づけ (吉田, STOC ’14) を改良したもので,劣線形時間計算の理解を深めることに成功した. (2) 無向グラフの枝連結度を求める問題は, グラフアルゴリズムにおける最も基本的な問題の一つである.本研究ではこの問題に対する初めてのo(mn)時間決定性アルゴリズムを与えた (河原林-Thorup, STOC'15). ここでnは頂点数,mは枝数を表す. アルゴリズムは「ページランク (ある種の酔歩)」を利用しているにもかかわらず決定性であるという意味で興味深いと考えられる. (3) 無向グラフの種数を求める問題もまた, グラフアルゴリズムにおける最も基本的な問題の一つである.本研究ではこの問題に対する初めての非自明な多項式時間近似アルゴリズムを与えた (河原林-Sidiropoulos, STOC'15).このアルゴリズムは, 与えられたグラフの種数がgより大きいか判定し, そうでなければ種数がgの多項式である曲面への「埋め込み」も構成する,という意味で幅広い応用を持つ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は以下の目標を掲げ研究を行ってきた. (1) 劣線形時間計算の可能性と限界の詳細を解明, (2)劣線形時間計算と一般の計算限界の関係のさらなる追求, (3) 情報理論・符号理論による解析手法の限界解明と打破. 本年度は全ての目標に対して進捗があった. (1)については, 研究実績の概要で述べたように,関数の性質の定数時間検査可能性の特徴づけという最も基本的な問題に対する大きな進展を与えた.この結果の解析技法である高階フーリエ解析は(3)を達成する手段としても有望である. さらに,劣線形時間計算の主要分野である性質検査に関する専門書を執筆中 (吉田ら, Springer) である. (2)については, 通信複雑性(劣線形時間計算モデルの一種) の結果に触発された一般の計算限界の結果 (回路計算量の下界) を得た (脊戸-玉置ら, 投稿中).この結果は情報理論・符号理論による解析手法の限界を打破したという意味で(3)を達成している. また, (1)~(3)の目標以外の一般の計算限界についても, 重要な未解決問題であった閾値回路の限界解明に進展をもたらす成果を得ている (玉置,投稿中). これらの成果は, 計算量理論における最も権威のある国際会議CCCのワークショップで招待講演として発表される予定である (吉田, 玉置). 以上の理由から, 進捗は順調であると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
前項目で述べた研究目標を達成するべく各班員が研究を進めるとともに, 以下も行う. (1) CCCを通じた国際交流:5/27~6/3にかけて開催される国際会議CCCには海外から計算量理論の一流研究者が多数参加する.この機会を有効に使い, 本研究課題の成果を周知するとともに, 共同研究の開始を試みる. (2) 成果のとりまとめ: 研究課題の最終年度を迎えるため, 現在までに得られた成果をとりまとめ, 領域内外に周知する.得られたフィードバックをもとに, 成果をより広い範囲に伝わる形にまとめるよう努める. (3) 他の班との連携:本研究班と他の班の現在までの成果を詳しく検討し, それらの相乗効果により新しい成果を得ることを模索する.そのために, 勉強会や研究打合せを開催する. (4) ミニワークショップの開催:上述の(2)(3)を達成するために, ミニワークショップを開催する.班員が現在までの成果を発表し, それらについて議論を行う.
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