研究領域 | 多面的アプローチの統合による計算限界の解明 |
研究課題/領域番号 |
24106004
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
浅野 哲夫 北陸先端科学技術大学院大学, 学長 (90113133)
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研究分担者 |
上原 隆平 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 教授 (00256471)
垂井 淳 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (00260539)
小野 廣隆 九州大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (00346826)
清見 礼 横浜市立大学, 総合科学部, 准教授 (30447685)
大舘 陽太 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 助教 (80610196)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | アルゴリズム / 省メモリ / 計算量 / 下界 |
研究実績の概要 |
本研究では,メモリの使用量に制限があるモデルにおいて,基本的なアルゴリズム的課題に対する被自明な下界の確立に向けての解析技法の開発を行っている.平成27年度は,より基本的な課題に立ち返り,以下の問題の研究を開始した. 最近要素発見問題:この問題では,数が入った長さnの配列Aが与えられ,さらに,クエリとして一つの数qが与えられる.これに対して,Aの中で最もqに近い要素を返すのが目的である. Aが読み出し専用のデータとして与えられ,Aに対するクエリが多数実行される設定を考える.前処理を全く行わなければ,毎回のクエリに対してAを端から端まですべて見ることで,O(n)時間で回答できる.また,前処理を行いO(n log n)ビットのデータを保存することができる場合には,Aをソートした配列A’を持てば,各クエリに対してA’を二分探索することでO(log n)時間で答えることができる. では,前処理の後にo(n log n)ビットだけ保存しておくとした場合,クエリをどれだけ高速化することができるであろうか.我々はこの問題の研究を開始し,o(n log n)ビットのデータ構造を保存しておくことで,クエリ実行時間を自明な上界より改善できるという初期結果を得た.また,2次元平面上への問題も考え,同様の初期結果を得ることができた.現在,この結果を更に発展させるべく,研究を継続中である. この研究の副産物として,配列のソート(比較に基づくもの)に対して,前処理およびo(n log n)ビットのデータ構造の保存を行っても全く実行時間を改善できないという考察も得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近要素発見問題に対する研究を開始し,初期的な結果を得ることができた.結果は,それだけで興味深いものであるが,さらなる発展を平成28年度の目標としている.更には,副産物として,比較に基づくソート問題に対する前処理の無効性も得ることができた. 一般に,計算量の下界を得ることは難しく,我々の「メモリ制限下での計算量下界の精密化」という課題は非常に挑戦的である.しかし,これまでの研究を通して,メモリ制限下で高速化できる基本的問題の例がいくつか得られてきており,反対に,メモリ制限下では自明な低速アルゴリズムしか得られない例も発見できた.これらの知見を活かすことで,最終年度の研究目的が明確に立てられている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では(1)アルゴリズム理論における基本操作,(2)計算幾何における基本演算,ならびに(3)グラフに関する基本アルゴリズムの省メモリ実装の観点から計算限界の解明に取り組んできた.平成28年度は本研究課題の最終年度ということでこれまでの研究の流れを踏まえ,以下の問題について取り組む. 第一に(1), (2)の問題として,n個のデータが読み出し専用の記憶装置に与えられているとき,o(n)のメモリだけを用いて,元のn個のデータに対する探索をo(n)時間で実行できるかどうかについて考察する.また,多次元の問題にも拡張できる.すなわち,2次元平面にn個の点が与えられているとき,任意に与えられた点に最も近い点を求める問題である. 第二に(2), (3) の問題として,n画素の2値画像がビットマップの形で与えられているとき,そこに含まれる最大の連結成分だけを残して,他の画素をすべて消し去る問題についても考察する.研究代表者らは,O(√n)のメモリだけを用いてO(n log n)時間で最大連結成分だけを残すアルゴリズムを過去に提案しているが,これを線形時間に改善できるかどうかは未解決問題として残されていた.この未解決問題に再び取り組む.従来と違う点は,画像が読み出し専用のメモリで与えられるのではなく,読み出しも書き込みもできるビットマップの形で与えられる点である.これに対数領域のアルゴリズムの考え方が適用できないかを探りたい. 第三に(3)のテーマとして,独立集合問題を取り上げる.本研究ではこれまでグラフに対する省メモリ最短路アルゴリズム,省メモリ深さ優先探索アルゴリズムを開発してきた.平成28年度はこれらと比べるとやや応用よりの問題である独立集合に関する省メモリアルゴリズム開発を行う.具体的には置換グラフの独立集合に対して省メモリアルゴリズムの開発を行いたい.この問題は,有名な最長増加部分列と等価であり,(1)のテーマでもある.
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