研究領域 | 多面的アプローチの統合による計算限界の解明 |
研究課題/領域番号 |
24106008
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
渡辺 治 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (80158617)
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研究分担者 |
小柴 健史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60400800)
伊東 利哉 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (20184674)
山本 真基 成蹊大学, 理工学部, 准教授 (50432414)
安藤 映 崇城大学, 情報学部, 助教 (20583511)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 充足解探索 / 解空間の構造 / 解の一意化 / 平均時計算複雑さ / 伝搬系アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究課題では,統計力学的手法により計算限界解明の新たな道筋を開くことを大きな目標に掲げている.技術的には統計力学的手法を計算論的にどのように厳密化するか,が重要な課題である.その具体的な研究対象として,SAT 問題(とくに Max3XORSAT 問題)の解空間の構造と平均時計算困難性について,統計力学的な解析手法により予想されている描像を厳密に示すこと,また,統計力学的にも魅力的な新たな研究テーマを提供する研究を進めてきた. 本研究課題の当初から進められてきた充足解探索に対する伝搬系アルゴリズムの平均的な限界に関する解析において,アルゴリズムの動きをマルコフ過程として解析する非常に強力な手法を発見することができた.それにより,これまで解析してきた uniquely extensible k-CSP(解拡張が唯一に決まり得る制約充足問題)のより一般化された問題に対する伝搬系アルゴリズムの成功・不成功を分ける制約式密度の厳密な閾値(正確には閾値関数)を得ることができた.(現在,論文投稿中.) 充足解探索問題における解空間の構造に関しても大きな成果を 2 つ上げることができた.まず,解を一意に特定する手法(解の一意化)に関し,ブラックボックスモデルを提案し,その上での一意化の限界を A01, C02 班との共同で明確にすることができた.次に,充足解探索問題の典型例である CNF-SAT 問題において解が多く存在する場合には,その解空間に必ず大きな解の固まりができることを証明することに成功した.また,安藤は,整数不等式制約に対する解空間の構造を利用し,解の個数を近似する効率的なアルゴリズムを得ることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
業績の概要の最初に挙げた新たな解析手法の発見は,本計画研究で雇用した博士研究員の森が,渡辺,小柴,山本らとの議論の中から見出したものである.この強力な新手法により,本研究課題の当初の目標の1つを解決することができた. また,充足解探索問題における解空間の構造に関する研究は,統計力学での解析をヒントに,本研究課題で開拓した計算複雑さの理論の新たなテーマである.その最初の成果である解の一意化の限界の結果に対し,理論計算機科学分野におけるロシアでの重要な国際会議の International Computer Science Symposium in Russia において,最優秀論文賞(Yadex Best Paper Award)が授与されるなど,世界的にも注目されている.また,CNF-SAT の解空間の構造を解析した渡辺の成果,ならびに解の個数の近似アルゴリズムを提案した安藤の成果は,計算論とアルゴリズムの国際会議,第 25 回 International Symposium on Algorithms and Computation の論文誌特集号の論文にも選ばれた.
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今後の研究の推進方策 |
まず,今年度の班員構成について.森立平博士研究員が助教(東京工業大学情報理工学研究科)に採用されたため,本年度からは分担者として本研究に加わることにした.また,昨年度末に新たに Navid Talebanfard 博士研究員を雇用したが,さらに今年度も新たな博士研究員を雇用し,体制を強化する. 研究面では,伝搬系アルゴリズムの平均時の性能解析についての研究が,一区切りついたのに対し,解探索空間の構造の研究に関しては,これまでの研究を,たとえば CNF-SAT の計算複雑さの解析に応用するなどの理論的な展開を目指す.このテーマに関しては Simons Institute においても今年度の重点課題として取り上げられているため,そのプログラムとも共同して研究を進める.また,Talebanfard 博士研究員が,証明計算複雑さなど数理論理学からの計算複雑さの解明にも精通していること,海外の著名な研究者や活動的な若手研究者との連携が深いことから,彼を中心として A01班(数理論理学からの計算限界の解明班)や海外との新たな共同研究の構築を目指す.
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