研究領域 | 多面的アプローチの統合による計算限界の解明 |
研究課題/領域番号 |
24106009
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
山下 茂 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (30362833)
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研究分担者 |
河内 亮周 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (00397035)
中西 正樹 山形大学, 教育文化学部, 准教授 (40324967)
ルガル フランソワ 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 特任准教授 (50584299)
西村 治道 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70433323)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 量子計算 / 量子情報 / 量子力学 / 計算モデル |
研究実績の概要 |
以下の3つの柱の研究に対して、それぞれ以下の成果をあげた。 1. 通信を含む量子計算に関する研究: 量子非対話型証明系が片側誤り化可能かは数年来の未解決問題である。古典の非対話型証明系が片側誤り化可能なため量子でも成立するかは自然な疑問であるが、否定的な証拠が提示されるなどその解決には古典に比べはるかに難しい要素を含む。この問題に対し、エンタングルメントを利用した形での進展を与えることに成功した。つまり、事前に証明者と検証者が定数量のBell状態を共有すれば量子非対話型証明系が片側誤り化できることを明らかにした。また、非決定性量子通信計算量について、複数のプレーヤーが参加する状況で、各プレーヤーは自分の入力のみを参照できる場合の量子通信計算量の下界と他人の入力のみを参照できる場合の量子通信計算量の上界を求め、非決定性量子通信が有界誤り量子通信より優位になる場合があることを示した。 2. 計算能力の解析手法に関する研究: ハードコア述語のブラックボックス型帰着による安全性証明において量子計算帰着が真に強力であることの傍証を得ることができた。特に古典計算において誤り付きのオラクルが与えられた場合の効率的なブラックボックス帰着の不可能性証明の新しい技法を与えた。また、今までは主に質問計算量の枠組みで扱われてきた与えられた行列の積を計算する問題に対して、より広範囲に適用できる計算量の枠組みの上で高速な量子アルゴリズムを構築し、量子計算の優位性を明らかにした。さらに、その量子アルゴリズムの研究を通じて獲得される洞察を活かし、長方形行列積に対する新しい古典アルゴリズムを構築することにも成功した。 3. 新たな量子計算モデルに関する研究:トポロジカル量子計算向けの量子回路を3次元空間により効率的に実現するために、論理量子ビットを2次元に配置する新しい量子回路のモデルを考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子計算は従来の計算(古典計算)を真に凌駕すると考えられており、(I) 通信を含む量子計算に関する研究、(II) 計算能力の解析手法に関する研究、(III)新たな量子計算モデルに関する研究、などの研究が行われてきている。しかし、通常の計算モデルに基づく計算量理論のような体系付けられた理論は未整備であると言わざるを得ない。そのため、特に量子計算の能力の源泉であると考えられるエンタングルメント等の量子力学特有の現象が計算能力に与える本質的な根源を突き止める研究は、今後の計算限界の究明に必須であると考えられる。そのため、本研究では上記(I)-(III)の研究を物理と計算の両面から定量的な方向へ深化させ、それらの成果や解析手法を統合することにより、量子力学特有の現象が計算能力にどのように影響するのかを定量的に議論できるための統合的な枠組みの創出を目指している。そのため、これら3つの項目に関して、様々な観点から研究をすすめている。これに関しては、前項目で述べたとおり、それぞれ着実に研究成果を積み上げていっていると考えている。そのため、おおむね順調に進展していると考えている。ただ、最終的に達成したいと考えている量子力学特有の現象と計算能力の本質的な解明はまだ達成されていないため、3つの柱の研究を進めながら、今後はそれらを融合した新たな研究テーマを創出していかなければならないと考えており、今後は研究者で定期的に会合を開いて共通のテーマを創出することも目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も3つの柱の研究に対して、以下のようにそれぞれが研究を進める。加えて、2ヶ月に一度程度、研究分担者全員で集まって、新しい研究テーマの創出も目指す。 (I) 通信を含む量子計算に関する研究(西村、谷、小林、伊藤):前年度得られた量子非対話型証明系の片側誤り化の成果をもとに、事前共有のBell状態を取り除くことで問題の完全な解決を目指す。そのために、量子非対話型証明系におけるエンタングルメントの効果を計算・物理の両面から解析する。また、衝突発見問題という基本的な問題に関して、その数え上げや列挙を行うための量子質問計算量を昨年度に提案された幾つかの量子ウォークアルゴリズムを手がかりに探究する。 (II) 計算能力の解析手法に関する研究(河内、中西、Le Gall) :今まで主に実数行列など環上の行列を扱って来たのに対し、今年度はグラフの距離行列など一般の半環上の行列にも着目する。この枠組みでも、量子帰着という概念に基づき、量子計算と古典計算の本質的能力差の解明を目指す。また、昨年度の研究までで得た帰着に関する研究をさらに推し進め、他の自然な帰着においても量子帰着が古典帰着よりも強力な場合を調査し、新たに古典帰着の限界証明、および量子計算によるその限界突破の可能性の研究を進める。さらに、量子計算機の単純なモデルである量子オートマトンの能力を調べることにより、量子計算が有効に働く状況、あるいは、量子計算が苦手とする状況を明確にする。 (III) 新たな量子計算モデルに関する研究(山下、村尾、根本):トポロジカル量子計算モデル(TCSQC)に置ける回路モデルに対して、昨年度までの研究成果をもとに、量子ビットを2次元に配置する場合と3次元に配置する場合での計算時間の関係を調べる。また、具体的な設計手法を開発して、具体的な回路を設計する手法の開発を目指す。
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