研究領域 | 人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合 |
研究課題/領域番号 |
24107003
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
井上 晴夫 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 特任教授 (90087304)
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研究分担者 |
八木 政行 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00282971)
神谷 信夫 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 教授 (60152865)
野口 巧 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60241246)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 光化学系II / X線結晶構造解析 / 光合成水分解反応 / フーリエ変換赤外分光法 / 水の酸化触媒 / 金属錯体 / 水の2電子酸化 |
研究実績の概要 |
A02班では、水を電子源とする人工光合成系を確立するために、「いかにして水から電子を引き抜くか?電子源に成し得るか?」に焦点を絞って研究を実施している。以下各項目の平成27年度の研究成果を要約する。 1)光化学系II複合体(PSII)の結晶解析についてX線ドーズを従来より1桁以上小さい0.03、0.12 MGyまで低減させ、1.87、1.85 Åの分解能で構造解析することに初めて成功した。PSIIの酸素発生中心(OEC)のX線還元による構造変化には0.1 MGy以下の領域にしきい値があり、そのしきい値以下ではOECの構造変化は極めて小さいこと、PSII結晶に含まれる2つのモノマーのOEC構造は互いに独立であることが明らかとなった。これは、2つのOECがいずれもS1状態で異なる構造をとるか、それぞれのS状態が異なることを示唆しており、PSIIの酸素発生機構を考える上で極めて重要な情報を得た。 2)光化学系Ⅱ蛋白質について、赤外分光法と量子化学計算を用いて、触媒中心であるMn4CaO5クラスター周辺の水分子ネットワークの役割を調べた。複数の水分子に非局在化したOH伸縮振動が水分解の際の速いプロトン放出に重要であることが示された。 3)分子触媒による水の酸化について一電子酸化で誘起される二電子酸化反応により過酸化水素が生成することを初めて実証した。ユビキタス元素による高効率の電気化学酸化も達成した。 4)単核ルテニウム(II)アコ錯体の光異性化反応を利用して、新規二核ルテニウム(II)アコ錯体の合成に成功し、これが高い水の酸化触媒活性を示すことを見出した。さらに、二核ルテニウム(II)アコ錯体を電極表面に修飾するために、カルボキシル基またはリン酸基を導入した二核ルテニウム錯体を合成し電気触媒化学的酸化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PSIIの水分解・酸素発生機構の解明に向けて今回得られたS1状態の構造に対する成果は、これまでの想定を越えた領域にあり、Kokサイクルの各S状態が複数の混合原子価状態の混合状態として機能する可能性を提示したものである。また、鍵となるOEC触媒中心周りの水分子のネットワークについて、実験、計算の両面からその役割を示すことができた。分子触媒では極めて高効率な水の2電子酸化が可能であることを初めて実証した。
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今後の研究の推進方策 |
光合成解明グループでは、PSIIの同型結晶を多数準備し、構造解析のX線ドーズをさらに0.01 MGyまで低減させ、PSII結晶に含まれる2つのモノマーのOECが、それぞれS1、S0状態である可能性を検討する。大強度フェムト秒レーザーを利用してKokサイクルを1ステップ進めた状態を実現し、その構造を明らかにしてPSIIの水分解・酸素発生機構の全容解明を目指す。またMn4CaO5クラスターのアミノ酸配位子の構造や中間状態遷移における電子・プロトン移動、基質水分子の取り込み過程を調べ、水分解機構の解明にせまる。分子触媒グループでは、一電子酸化に誘起される水のに電子酸化過程についてその学理を解明するとともに水の酸化触媒の活性と構造との関係を明らかにして、水の酸化触媒開発指針を提供すると共に、錯体の化学修飾により更なる高性能な錯体触媒を開発する。
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