研究領域 | 人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合 |
研究課題/領域番号 |
24107005
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石谷 治 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (50272282)
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研究分担者 |
田中 庸裕 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70201621)
森川 健志 株式会社豊田中央研究所, その他部局等, 研究員 (70394666)
天尾 豊 大阪市立大学, 公私立大学の部局等, 教授 (80300961)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 光触媒 / CO2還元 |
研究実績の概要 |
リング状Re多核錯体が、光増感剤として大変すぐれていることを明らかにし、Mn錯体触媒と合わせて用いることで、これまでの報告の中で最も高いCO2還元反応の量子収率を達成した(Φ = 0.58)。Ru(II)-Re(I)超分子光触媒を用いたCO2還元反応における重要な素過程の一つである、還元された光増感部から触媒部への分子内電子移動の速度を、時間分解赤外分光法を用いて初めて測定することに成功し、スルーボンドで電子移動が進行することを明らかにした。 Ag/ZnGa2O4/Ga2O3に希土類元素を添加することにより,COの生成速度を2倍程度向上させることに成功した。反応中に希土類酸化物とCO2からなる希土類酸炭酸化物が形成されるため,活性点近傍に速やかにCO2が供給され,高いCOの生成速度を得たと結論した。 p型の可視光応答性を示す半導体N-Ta2O5電極へ金属触媒を担持した系では、優先的に水分解・水素合成が進行することが明らかとなった。またカーボン多孔体への金属触媒担持により、carbonate水溶液ではなくphosphate溶液中でも電気化学的に選択的CO2還元反応が進行することを明らかにした。金属表面への分子固定による電気化学CO2還元反応も開始した。 二酸化炭素をギ酸に変換する反応を触媒するギ酸脱水素酵素とビオローゲン誘導体との間の直接的な相互作用機序を酵素反応速度解析により明らかにした。さらにギ酸脱水素酵素の活性点付近の構造とビオローゲン誘導体構造との相関解明に向けた研究に着手した。さらに分子設計・合成した人工補酵素をアルコール脱水素酵素に適用し、ホルムアルデヒドからメタノール生成に有効であることも明らかにした。光捕集分子-酵素複合型分子の分子設計・合成(A01班の民秋均教授との共同研究)も進め、白金コロイド触媒存在下で光照射による水素発生系も構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間分解赤外分光法を用いて、CO2還元光触媒機構の素過程を明らかにしたのは、本研究が初めてであり、この分析手法の、この分野での有用性を明らかにすることができたことは重要と考える。今後さらにこの研究を継続し、長年明らかになってこなかったCO2還元光触媒機構へ切り込みたい。Mn(I)錯体触媒を用いたCO2還元光触媒系における高い可能性を示せたことも大きな成果と考える。 H2Oを電子源としたCO2の光還元については,希土類の添加効果に関する成果があり,順調に進展している。希土類酸化物がCO2と反応して新たに希土類酸炭酸化物なるなど新しい所見が得られたため,CO2の捕集剤に関してH28年度も引き続いて検討する予定である。 N-Ta2O5電極-金属触媒系は、可視光CO2還元反応が困難であったので、水素生成系として論文投稿を行いこの系の研究は終結させる。一方、カーボン多孔体への金属触媒担持による電気化学CO2還元反応については、新しい所見が得られ順調に進展している。この系はいずれ光反応系にも展開可能である。このため他の系を含めてH28年度も引き続き検討中である。また、金属表面への分子固定による電気化学CO2還元反応も継続中である。 これまでに光捕集分子-酵素複合系を用いたCO2の高効率光還元反応を達成するために、平成27年度は人工補酵素であるジアルキルビピリジニウム塩に様々な置換基を導入しギ酸脱水素酵素の二酸化炭素還元活性に及ぼす影響を酵素反応速度および立体構造解析により明らかにした。さらにこれら分子設計・合成した人工補酵素をアルコール脱水素酵素に適用し、ホルムアルデヒドからメタノール生成に有効であることを明らかにした。さらにA01班民秋教授との共同研究により光捕集分子-酵素複合系に有効な分子の合成・光触媒機能発現にも成功し、最終目標に向け順調な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、レドックス光増感剤として優れた能力を有するリング状Re(I)多核錯体を、Mn(I)及びRu(II)錯体触媒と組み合わせることにより、高い効率でCO2を還元する光触媒系の確立を試みる。稲垣博士との共同研究により、2,2'-ビピリジンを壁面に組み込んだメソポーラス有機シリカ(PMO)にMn(I)錯体を組み込む方法を確立し、種々のレドックス光増感剤と組み合わせることで、簡便かつ高効率に機能するハイブリッド光触媒の開発を目指す。時間分解IR測定法を用いて、超分子光触媒を用いたCO2還元反応における各素過程の機構解明を目指す。 引き続き、水溶液中で電気化学的にCO2分子の4-8電子還元反応を実現する2-3元系合金助触媒を探索する。これらの助触媒をカーボン担体と組み合わせることで、CO2還元反応選択性の向上をはかる。その特性に合わせて、p型の光応答を示す半導体、NドープTa2O5、N,Zn共ドープFe2O3、あるいはSiの表面に添加し、可視光照射下における水を電子源としたCO2還元反応を実現する。CO2還元反応を検証する際には、同時に水分解・水素合成の反応検討も実施する。 H2Oを電子源としたCO2の光還元に非常に高い活性を示すことを見出しているAg/ZnGa2O4/Ga2O3の触媒表面において、CO2を吸着・濃縮・供給するため,層状複水酸化物との複合材料を合成し,CO2の転化率およびCOへの選択率の向上を図る。 CO2を燃料化する光捕集分子-酵素複合型人工光合成系の創製を目指し,CO2をギ酸に変換する反応を触媒するギ酸脱水素酵素と人工補酵素ビオローゲン誘導体との間の直接的な相互作用機序を酵素反応速度解析およびタンパク質の立体構造解析により明らかにする。また、民秋均教授との共同研究として着手している光捕集分子-酵素複合型分子の合成およびCO2還元能を明らかにする。以上の研究から、CO2‐有機分子変換を可能とする光捕集分子-酵素複合型人工光合成系の達成を目指す。
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