研究領域 | プラズマ医療科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
24108004
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金子 俊郎 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30312599)
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研究分担者 |
佐藤 岳彦 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (10302225)
加藤 俊顕 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20502082)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | ナノプラズマ / カーボンナノチューブ / 遺伝子導入 / 生体機能制御 / 局所プラズマ照射 |
研究実績の概要 |
本研究は,ナノプラズマ局所照射により生体機能を制御することで,高効率・低侵襲の新しい遺伝子治療技術を開発することを目的としている.4年目の本年度は,ナノサイズ電極を用いて生成した液中微小プラズマの細胞への刺激の同定を行うとともに,細胞内への遺伝子導入の機序解明を目的として,イオンチャネルおよび膜動輸送に着目し,リアルタイムイメージングによる細胞内の種々の物質密度の過渡応答を観測した. 1. これまでに,ナノサイズ電極を用いることで直径が数μm程度の微小プラズマの生成に成功している.この微小プラズマで発生する短寿命活性酸素種(水酸基ラジカル)の空間分布を測定したところ,水酸基ラジカルは電極中心から1mm程度以内のみで生成されており,その領域で細胞に化学刺激が加わっていることを明らかにした.また,電極先端から衝撃波が生じていることが観測され,その圧力刺激が細胞に与えられていることが分かった.さらに,海外研究協力者のEun Ha Choi教授(韓国)との議論により,紫外線が数mmの距離で液中に浸透することがわかり,光刺激も細胞に重畳している可能性が示唆された. 2. プラズマ照射生理食塩水を細胞に添加し,その後に誘発される遺伝子模擬分子YOYO-1の細胞内導入量をリアルタイムイメージング技術を用いて計測したところ,YOYO-1導入量を示す緑色蛍光が強く観測され,特に溶液添加から20分後以降で顕著であることが分かった.海外研究協力者のUros Cvelber教授(スロベニア)との議論により,導入促進の機構には,数分以上の時間を要する細胞活動が深く関わっていることが示唆された.また,イオンチャネルおよび膜動輸送の阻害剤を添加したところ,YOYO-1導入の抑制が観測されたことから,プラズマ照射溶液によるイオンチャネル活性化に伴う細胞内へのカルシウムイオン流入が膜動輸送を活発化させ,遺伝子模擬分子が細胞内に導入されたと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ナノプラズマの生成・制御に関しては,ナノサイズ電極を用いた微小プラズマ生成に成功し,さらにその微小プラズマから発生する,活性種,紫外線,衝撃波,電流等の測定を通して,それらの細胞活動に対する効果を詳細に調べており,当初の計画以上に進展していると言える. 細胞への遺伝子導入に関しては,プラズマ照射生理食塩水による細胞膜のイオンチャネルの活性化に伴って,カルシウムイオンが細胞内に流入することが明らかとなっている.さらに,カルシウムイオン流入により活発化した膜動輸送による遺伝子模擬分子の導入の過渡応答を調べることによって,プラズマ照射による遺伝子導入,すなわち細胞膜輸送の機序解明に迫っており,当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,これまでに開発してきた各項目の成果を用いて,総合的に低侵襲・高効率の遺伝子デリバリーシステムを構築するとともに,最終的に生体内で使用する際に問題になる安全性について検証する. CNT先端でのナノプラズマ生成に関しては,細胞質内で生成したプラズマによって,細胞反応の活性化もしくは細胞の損傷が生じることが考えられるため,海外研究協力者のEun Ha Choi 教授(韓国)と連携して細胞内のプラズマ起因の活性種及び紫外線を測定するとともに,その細胞への作用をA02の清水班と連携して調べる. 遺伝子のCNTへの内包・輸送・放出手法開発に関しては,遺伝子デリバリー後のCNTの排出に際して,CNTを水溶化処理することにより無毒化できるかどうかについて調べるとともに,細胞質内に残留しているCNTによって,遺伝子がダメージを受けるなどの副作用が生じるかどうかについて,A03の田中班と連携し,安全性について詳細に調べる. 細胞への遺伝子導入技術開発に関しては,これまでのリアルタイムイメージングによる細胞内のイオン濃度の過渡応答観測により,カルシウムイオンが遺伝子および薬剤の導入に重要な役割を果たすことが分かっている.海外研究協力者のUros Cvelbar教授(スロベニア)と連携して,細胞内のカルシウムイオンと遺伝子・薬剤の濃度の過渡応答同時観測により,プラズマ照射によるカルシウムイオンの導入に起因するシグナル伝達を介した遺伝子・薬剤導入の機序を解明する.
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