計画研究
「止血に始まる創傷治癒のプロセス」にフォーカスした研究を実施している。池原と中西が担当したプラズマの作用する生体分子ネットワークに関する探索研究は、現在までにa) 組織病理学的解析、b)遺伝子・糖・タンパク等の網羅解析を完了し、止血を起点として観察される創傷治癒のプロセスについて、その全容をほぼ把握するに至っている。DNAマイクロアレイによる解析により同定した遺伝子の発現を検出評価することで、高周波凝固デバイスに対するプラズマ処置の特性と効果(より低侵襲な止血デバイスであること)を定量的に示すこと可能としている。加えて、公募課題の秋元班との共同研究で「プラズマで止血処置した創部の超微形態観察を行うことで、プラズマの仕様で生じる血液凝固が、従来の止血デバイスでは観察されない特徴的な形態を示す事を見出した。2) 生体分子に作用するプラズマの質を捉えて血液凝固のプロセスを解明するための研究は榊田と金が担当し、各種計測法の確立を通じて、計測評価を進めた。これまでに a) 発光分光計測、b) プラズマに由来する活性種の分布などを行っている。我々の装置を用いて発生させたプラズマフレアーは、含有する窒素分子の温度が340 K程度と十分に低く、これの接する生体組織の表面温度は約40度程度にしか上昇しないことを明らかにした。さらにc) 生化学実験用プラズマ発生システムの構築と解析を行うことで、大気圧環境の再現だけではなくO2、N2、He等のガスの成分比を精密に制御して、生成される気相中の物質をパラメーターに、凝集物質との因果関係の分析と評価を開始するとともに、液中に生成されるアルデヒド基に関与する気相中の物質に着目した計測と解析も進めた.
1: 当初の計画以上に進展している
当初に予定していたとおり、プラズマ処置に続く創傷治癒プロセスの全容に迫り、そのメカニズムの解明に向けた進歩を達成することができた。実際、病理学的アプローチによる研究は、良好な創傷治癒のプロセスを明確とし、プラズマ止血によって実現される良好な創傷治癒プロセスに見出した特徴的な遺伝子発現プロファイルは、プラズマ処置の低侵襲性を裏付ける根拠となるものとなった。さらに、予定していた計画に加えて公募課題の秋元班との共同研究を開始し、「プラズマで止血処置した創部の超微形態 」を検討したことで、プラズマで止血した創傷部の所見は、従来の止血デバイスでは観察されないユニークな状態であることを見出している。血液凝固の起点になるプラズマ粒子と生体分子の相互作用を解明するため、計画していた各種の計測法の確立と、その実測を実施した。これまでの結果を総括すると、プラズマ処置による血液タンパクの凝集・分散効果のメカニズム解明に、迫りつつある状況であると考えている。加えて実施したプラズマによる血液凝固のモデル化研究では、血清中の存在量が最も多いタンパク質であるアルブミンに着目して、プラズマ照射によるタンパク凝集の再現を試みたことで、「プラズマによる血液凝固と低侵襲止血」が、従来の止血で用いられてきた高周波凝固等のデバイスによる止血や、フィブリノーゲン製剤の使用による生理的な血小板凝固・凝固経路の活性化とはまったく異なる原理に基づくことを見出している。この事は即ち、プラズマ照射では、プラズマに特徴的なタンパク凝固機構により血液凝固・止血が達せられており、そのことが後の、良好な創傷治癒のプロセスに反映されていると考えている。以上に示すように、当初予定の研究計画を順調に実施しており、領域内での共同研究を推進してきたことから、予想以上の達成度にあると考えている。
領域の中間評価のコメントは、「マイルドプラズマ照射装置を用いてプラズマ機能を規定する生体反応を明確にし、さらに、プラズマによるタンパク質の凝集および分散の機構の解明に取り組んでおり、検証作業は的確に進展している。」であり、その進捗において評価を頂いている。26年度までの実施内容と評価コメントを踏まえ、27年度以降の研究計画では、プラズマによる生体分子の凝集・分散メカニズムについての理論構築を達成するべく推進するとともに、その理論実証ならびに応用展開として、プラズマ照射による3) タンパク質の機能改変や形状加工を検討することで、医薬品製造プロセス等での利用可能性にむけた道筋を明らかにする。1)では、これまで得られた結果を一般化することと、臨床でのプラズマ止血デバイスの実用化を推進するため、臨床を踏まえたin vivoモデルを使用し、公募班と連携した共同研究(超微形態学的評価;秋元班、分子イメージング技術による検証;片岡班、上田班)を実施し有効性・安全性を実証する。2)では、質の異なるプラズマが、どのように反応して表面構造を変化せしめたかを捉えて体系的に理解し、生体分子に作用するプラズマの分子メカニズムを理論化する。3)では、プラズマ照射によるタンパク質の機能改変や形状加工を検討することで、医薬品製造プロセス等での利用展開を検討する。
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