計画研究
本研究の目的は、申請者らが開発を進めてきた医療用プラズマ発生装置の使用で明確となる「低侵襲性」や「血液凝固やその後の創傷治癒効果」について、その作用原理・メカニズムを明らかにすることである。我々は、プラズマが血液に直接作用することで、血液構成成分のすべてよりなる安定な保護膜が形成されることを明らかにした。プラズマは、血液凝固系のタンパク質ではないアルブミンやイムノグロブリンなどの血清タンパク質を凝固させることができ、赤血球膜を破壊して遊出したヘモグロビンも凝固させる。つまり、プラズマ処置で生じた保護膜が出血点を塞ぎ、出血を停止させているのである。これに対し、現在の手術で使用される高周波凝固装置は、間質組織へ通電により発熱させて組織の水分を失わせる「収縮固化(凝固)」で、ゆえにプラズマより侵襲性が高いのである。26年度までに明らかにした「プラズマが作用する生体分子ネットワークの探索結果」と合わせると、プラズマ処理により生成した保護膜の担う生物学的効能とその作用機序をほぼ解明するに至ったと考えている。一方、生体分子に作用するプラズマの質を捉えて血液凝固プロセスの解明を試みてきた研究では、各種計測法を確立できたことから、プラズマの評価を進めた。前述の様にプラズマによる血液凝固は、自然凝固の加速、赤血球の溶血や血漿タンパク質の凝集より構成されるが、使用するプラズマ源の種類や放電ガス種等によって、溶血度やタンパク質凝集度が異なることも見出している。そこで、名大との連携により、プラズマフレアー電流・電圧、電子密度、窒素分子の回転・振動温度、酸素原子密度、ヘリウム準安定原子密度、液中OH量等の計測を実施した。産総研と名大のプラズマ源との比較、HeとArガスの比較から、条件によってそれぞれの相違点を見出している。
1: 当初の計画以上に進展している
背景メカニズムに関する研究では、遺伝子やタンパク質の発現の計測を通じて、プラズマ処置による効能を、定性的かつ定量的に評価可能とした。上田班との共同研究で、18Fグルコース PETイメージング技術を利用できたことから、プラズマ止血処置の低侵襲性についてのエビデンスを取得し、世界に先駆けて結果を報告できた。秋元班との共同研究で超微形態学的な解析を進め、プラズマで処理した際に出現する生体に由来する凝集物質や形成された保護膜、血液が膜へと変換されるプロセスを可視化することができた。プラズマ処置による血液凝固の制御については、プラズマフレアーの接触によりサンプルへ流れる電流を制御することで、赤血球の溶血凝固や、アルブミンやイムノグロブリン等のタンパク質凝固を調節できることを明らかにしている。血液凝固の起点になるプラズマ粒子と生体分子の相互作用の解明では、A01班の名大と予定していた各種の計測法を確立・実測することで、プラズマ処置による血液タンパクの凝集・分散効果のメカニズム解明をほぼ完了できる状況にあると考えている。具体的には、電流・電圧の計測結果を元に低侵襲プラズマ源の回路計算を行い、プラズマの抵抗値・容量値を算出し生体にかかる電位や熱量を評価すると共に、高温プラズマとの作用の違いを明確化した。吸収分光法等により、被照射物表面で空気成分、水のペニング電離を生じさせるヘリウム準安定粒子が放電期間中急激に増加する様相等を確認し、Arプラズマとの違いに関する知見を得た。更に、プラズマフレアーのストリエーション現象を世界に先駆けて見出し、プラズマ源から生体物質間にかかる電界の重要性を示すことができた。以上のように、これら基礎研究の成果は、当初予定の研究計画を順調に実施しており、領域内での共同研究を推進してきたことから、予想以上の達成度にあると考えている。
中間評価のコメント「マイルドプラズマ照射装置を用いてプラズマ機能を規定する生体反応を明確にし、さらに、プラズマによるタンパク質の凝集および分散の機構の解明に取り組んでおり、検証作業は的確に進展している。」にあるように、27年度末においても、計画は当初の予定以上の成果を達成している。これらを踏まえ、プラズマによる生体分子の凝集・分散メカニズムについて構築した学理の発信に努めるとともに、その応用展開として、プラズマ照射によるタンパク質の機能改変や形状加工を中心とした医薬品製造プロセス等における利用可能性にむけた道筋の探索を加速する。28年度には、臨床でのプラズマ止血デバイスの実用化を推進するため、領域内の各班と連携した共同研究を加速し、臨床を踏まえたin vivoモデルでの検証、有効性・安全性の評価試験も実施する。並行して、「プラズマの質の違い」が、タンパク凝集・分散効果に対してどのような影響を与えているかを解析評価し、そのメカニズムを理論化する。そのために、各種プラズマ源、ガス種、処置環境等をそれぞれ制御し、これまでに確立してきた各種の計測解析法とレーザー誘起蛍光法、化学プローブ法等を駆使した計測を行う。得られた成果は、他領域の研究者が参入する際の指標となる体系的な理解と学理の確立を目指すとともに、医療技術への利用展開を実施する。特に、プラズマに起因したタンパク質に作用する気相・表界面・液中の反応プロセスを体系的に理解することで、タンパク質の改変・加工操作としての新たな医薬品製造プロセスを提案する。域内に構築した公募班を交えたワーキンググループの活動を活発化することで、関連した研究課題との相互効果により、1,2)で達成される成果の実用化を加速する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (27件) (うち査読あり 16件、 謝辞記載あり 10件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (40件) (うち国際学会 18件、 招待講演 11件)
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