計画研究
大気圧低温プラズマの医療応用は、その低侵襲性や現存の治療法に置き変わる可能性など大きな期待が寄せられている。しかしながらプラズマ照射が生体内や腫瘍細胞内で効果を発揮するメカニズムは十分に解明されていない。本研究では、プラズマ機器が実臨床の場で用いられるために欠くことのできない、正常組織や腫瘍細胞において生じるシグナルの変化を明らかにすることを目的としている。止血装置として実用化に最も近い池原班榊田研究室で作成されたプラズマ照射装置は、我々の検討してきた培養細胞系では腫瘍細胞死を起こさないことを昨年度までに報告してきたが、本年度の検討では本装置を使用して作成したプラズマ照射培養液(以下PAM)の前処置はドキソルビシンによる細胞傷害性に対して細胞保護効果を持つ可能性が示された。この現象は本装置の臨床応用での有益性を示すものと期待され、本研究領域長の名古屋大学堀教授研究室の『はばひろ』で作成したPAMとの成分比較を行うことで、目的(抗腫瘍効果、止血効果など)に応じたプラズマ照射装置の最適化に関する指標を得られる可能が高いものと考えている。止血装置としての大気圧低温プラズマ照射装置の有効性を検討する目的でマウス腹腔内癒着モデルの作成を行ってきたが、今年度は本モデルの処置後腹水を用いたプロテオミクス解析プロトコールを確立した。その結果、現在臨床で使用されている電気メスで処置した後に腹水中で発現が増強する蛋白質7種類が同定された。榊田研究室のプラズマ照射装置を本モデルに対して使用出来るように、東京大学先端科学技術研究センター浜窪研への設置も終了したため、経時的な血清中のサイトカインの動態と合わせて腹水プロテオミクス解析を進める準備が完了した。
3: やや遅れている
実験を実施している中で生じた問題点に対応して領域内でも検討を加えつつ、実験計画を修正しながら進めているので、当初の計画通りではないものの、全体としての進捗状況は若干遅れているという程度にとどまっている。具体的にマウス腹腔内癒着モデルに対するプラズマ照射、及びプラズマ照射液体培地腹腔内投与を行うことの癒着形成に対する影響については、プラズマ照射装置の設置が遅れたためプラズマ処理群に関しては予備実験の血清サイトカイン測定に留まり、病理学的検討やプロテオミクス解析に進めなかった。しかしながら、対照群と高周波凝固装置を用いたマウスの腹水を用いてプロテオミクス解析を行い、プロテオミクス解析プロトコールが確立でき、147サンプルから検討対象候補タンパク質を7つに絞り込めたため、これらを中心とした解析を進める準備が整った。培養細胞に対するプラズマ照射の及ぼす影響の検討については過酸化水素水投与とプラズマ照射液体培地投与の細胞増殖能へ及ぼす影響の比較検討は行えたが、2種類のプラズマ照射装置で作成したプラズマ照射培養液による細胞動態の差が大きく、その比較検討が本年度の主な検討項目となった。レドックスシグナリングに注目したプラズマ照射による蛋白修飾の検討に関しては、プラズマ照射装置の導入の遅れにより、生体反応・増殖にかかわるレドックスシグナリングに関する検討や長期生存モデルの作成には着手できなかった。本年度プラズマ照射群のプロテオミクス解析を行う際に処置部局所のサンプルを回収して検討を行う予定である。腫瘍細胞に対するプラズマ照射の病理学的検討については、領域内他班でプラズマ照射の抗腫瘍効果と対側のプラズマ非照射腫瘍への波及効果が示されたため、本研究班では止血処置に関わる有効性の検討を中心とすることとして、必要に応じてサンプルを提供いただき解析を進める形とした。
培養細胞に対するプラズマ照射液体培地が及ぼす影響の検討から、プラズマ照射の及ぼす影響の多くは過酸化水素由来によるものと考えられたが、過酸化水素濃度を同程度にしてもプラズマ照射装置により、細胞増殖に及ぼす影響に差が認められた。本学術領域A01班でプラズマ照射培養液の成分分析を進めていただきながら、過酸化水素では説明できない影響について検討し、目的に応じたプラズマ照射装置の最適化に関する指標を提供したいと考えている。本研究班の検討項目の中心と考えている止血装置として開発が進んでいる大気圧低温プラズマ照射装置の有効性の確認に関しては、マウス腹腔内癒着モデルでの検討を進める。本検討で得られたサンプルを用いて大気圧低温プラズマ照射に対する生体反応に関して、マクロレベルおよびミクロレベルの病理学的検討に加えて、プロテオミクス解析を中心とした分子生物学的検討を進める。レドックスシグナルに加えて、浜窪研究室で行っている高親和性抗体を磁性ビーズに固定したものを利用するターゲテドプロテオミクス解析を行うターゲット蛋白質の選定を進めることも重要と考えている。プラズマ照射装置が臨床で使用される場面では、生体に炎症が生じている可能性が高いものと想定されているため、培養細胞に炎症反応を惹起させた状態の細胞にプラズマ照射を行い、炎症状態の細胞に対するプラズマ照射の影響を明らかにする必要がある。本年度中にプラズマ照射培養液による前処置が培養細胞の酸化ストレスによる細胞傷害性を軽減することは示せたが、酸化ストレス存在下でのプラズマ照射の影響の検討も進めていきたい。また、長期生存モデルを使用して蛋白修飾を中心とした経時的変化を検討するための動物実験を開始し、長期的な大気圧低温プラズマ照射の安全性を示すとともに、プラズマ照射による生体反応の体系化を進めていきたい。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 5件、 査読あり 15件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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