研究領域 | 配位プログラミング ― 分子超構造体の科学と化学素子の創製 |
研究課題/領域番号 |
24108102
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大場 正昭 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00284480)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 多孔性金属錯体 / スピン転移 / ゲスト応答性 / ヨウ素 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、多孔性金属錯体の骨格に「機能性分子ユニット(FMU)」を合理的に配置し、FMUs が形成する空間においてゲスト分子とFMUs間の相互作用、並びにゲスト分子とFMUsの構造と電子状態変化が連動した高次機能の創発を目的とする。目的の達成のために、多孔性錯体材料 {Fe(pz)[Pt(CN)4]G} ((1); pz = pyrazine, G = guest molecule) を基軸化合物として、① FMUsとゲスト分子の相互作用による物性の制御、② FMUsおよびゲスト分子の構造と電子構造変化による機能発現および ③ 脂質二重層膜との複合化を推進した。 ①では、精密構造解析と理論計算から、ゲスト分子が CS2 および CO2 の場合のホスト-ゲスト相互作用を詳細に検討し、ゲスト吸着によるスピン状態変化の連動機構を解明した。また、pz を pyridine 誘導体に変えて構造を2次元系にすることで、ゲスト応答性および磁気特性の制御にも成功した。 ②では、化合物(1)の Pt を Pd に変えた類縁体において、ヨウ素吸着体の骨格の磁気特性が温度変化とともに大きく変化することを見出した。この変化をラマンスペクトルと粉末X線回折の同時測定により追跡し、細孔構造内においてヨウ素分子の配列が温度変化とともに大きく変わり、これによるホスト-ゲスト相互作用の変化が磁気特性に影響していることを確認した。 ③では、リン脂質を用いた逆ミセル法により、化合物(1)やプルシアンブルー類縁体のベシクル内水相におけるナノ・メゾ粒子の作成に成功した。ゼータ電位および TEM 観察により、内水相における多孔性金属錯体の生成を確認した。また、異なる FMUs を内包したベシクルを作成し、それらを融合することでも内水相において多孔性金属錯体を合成可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。特に、① FMUsとゲスト分子の相互作用による物性の制御、② FMUsおよびゲスト分子の構造と電子構造変化による機能発現においては、化合物 (1) を基軸として FMUs を変えた類縁体を多数合成することで、そのゲスト応答性の制御に成功した。また、精密構造解析と理論計算から、ゲスト吸着におけるホスト-ゲスト相互作用および配位子の回転運動の変化とスピン状態変化の連動機構を明らかにすることができた。これは、磁気双安定かつ細孔空間を有する多孔性金属錯体ならではの機構であり、この知見を基にさらに高度な機能の創発につながると期待される。また、③においては、ベシクルと多孔性金属錯体の複合化にも成功した。これにより、水中や生理条件下でのゲスト分子への応答などの機能性材料の開発への展開が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を基盤として、来年度も引き続き、① FMUsとゲスト分子の相互作用による物性の制御、② FMUsおよびゲスト分子の構造と電子構造変化による機能発現および ③ 脂質二重層膜との複合化を推進する。 ①では、特に [Pt(CN)4]2- を [M(N)(CN)4]2- などの相互作用部位を導入した FMUs に変えた類縁体の合成を進める。相互作用部位を細孔表面に周期的に配置することで、相互作用と分子形状による選択的なゲスト応答性を発現させる。また、pz を H2O などの脱離可能な配位子に置き換えた類縁体を合成し、ゲスト分子との配位子交換を経る機構の応答性を検討する。 ②では、ゲスト分子と反応する配位子を導入し、その反応と骨格の物性変化を、ラマンスペクトルと粉末X線回折の同時測定により追跡する。また、本年度行ったヨウ素吸着体の構造変化については、粉末X線パターンの温度変化から中間構造の存在が示唆されているので、その構造決定を進める。 ③では、ベシクルと多孔性金属錯体の複合化条件の最適化を検討する。現在、ベシクルへのイオンチャネルの導入による、新しい複合化法を見出しつつあり、来年度中にこの手法を確立する。
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