ラジカル重合の停止機構の解明について、H27年度に疑問点として残った異常な温度効果、すなわち、温度が高くなるとエントロピーが減少する反応である結合反応が不均化反応に比べてより優位に進行する現象の解明を行った。その結果、温度の効果は実は粘度の効果であり、温度が高くなって粘度が低くなることがこの原因であることを明らかにした。さらに、この粘度効果を利用することで、停止反応を制御できることを初めて明らかにした。すなわち、高粘度溶媒中では93%以上の高選択性で不均化反応が進行した。例えばポリスチレンでは、低粘度中では従来知られているように選択的に結合反応が起こる一方、高粘度中では不均化反応が進行することから、粘度の調整によりほぼ完全に選択性を変えられることを明らかにした。さらに、臭素末端を持つポリマーに低原子価の銅試薬を反応させてカップリング反応を行う反応において、その機構がラジカルカップリングであると提唱されていたが、ポリアクリレートを用いた場合には、有機銅アニオン種を経る機構であることを明らかにした。 反応の刺激によって次の反応が初めて進行する「刺激応答性モノマー」として、ビニルテルル化合物の利用を発案し、この特徴を活かすことでデンドリマー状構造を持つ超分岐高分子の実用的な構造制御合成に初めて成功した。すなわち、sp2炭素ラジカルとsp3炭素ラジカルの安定性が大きく異なることから、ビニルテルリドは重合開始基として働かない一方、このビニル部位が反応して生じたsp3炭素―テルル基は重合開始基となり、これが分岐点となっていることを実験的に証明した。アクリル酸エステルとの共重合において、有機テルル連鎖移動剤、ビニルテルリド、アクリル酸エステルの量を変えることで、狭い分子量分布を保ったまま分岐数、分岐密度、分子量の制御ができることを明らかにした。
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