研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109006
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
関口 章 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (90143164)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 開殻系分子 / 感応性分子 / 高周期14族元素 / スピン / ラジカル / レドックス / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
安定な化学種として合成に成功したケイ素=ケイ素二重結合化合物ジシレンを基盤とする常磁性化学種への展開としてイオンラジカル種の生成とその物性について検討した。ジシレンの酸化還元反応を検討したところ、アルカリ金属の化学量論や配位子制御によりケイ素二価化学種シリレンのアニオンラジカルやジシレンアニオンラジカルを、酸化反応ではジシレンカチオンラジカルを作り分けられることを見出した。また、高周期典型元素ヘテロ二重結合化合物としてケイ素=リン二重結合化合物のアルカリ金属を用いた1電子還元により対応するアニオンラジカルの合成に成功し、配位性溶媒中では対カチオンとの相互作用の無いフリーなアニオンラジカルとして存在することを明らかにした。三重結合ケイ素化合物ジシリンは当量のアルカリ金属との反応で容易に1電子還元が進行し、対応するアニオンラジカルを溶媒和分離イオン対及びアルカリ金属イオンがspケイ素と相互作用した接触イオン対として単離することに成功し、それぞれの分子構造を決定した。ジシリンアニオンラジカルは、中性ジシリンと同様なトランス折れ曲がり構造を持ち、ケイ素-ケイ素三重結合部位の伸長、折れ曲がり角の縮小が認められた。ジシリンの最低非占有軌道は面内非対称π*軌道であり、これに1電子を収容し、かつ軌道準位を下げて安定化することを反映した構造変化が引き起こされていることが示された。また、溶液の電子スピン共鳴スペクトルの解析も含め、ジシリンアニオンラジカルでは陰電荷及びスピンがSi-Si三重結合部位に非局在化した電子状態を持つことを明らかにした。また、2つのケイ素ラジカルを一般的なπスペーサーであるベンゼン環のp-位及びm-位に集積させたビス(シリルラジカル)の合成及び単離に成功し、パラ体が基底一重項のキノイド構造を持つ一方メタ体が高スピン基底三重項状態を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁性材料の素子としての利用等への発展的研究に向けて、ベンゼン環を連結子とするポリラジカルの合成を検討し、パラ2置換体は一重項パラキノジメタン構造と三重項状態との平衡混合物として存在しうるという知見を得ることができた。また、ケイ素=ケイ素二重結合化合物ジシレンの酸化・還元を基盤としてジシレンイオンラジカル種、さらにケイ素二価化学種シリレンのアニオンラジカル、金属置換シリルラジカルの合成に成功し、それらの構造、スピンの局在化・非局在化に関する知見を得ている。これまでの研究で得た多種多様な高周期典型元素を中心元素とする常磁性化学種の合成、構造及びスピン状態に関する知見と展望は「未来材料を創出するπ電子系の科学」(日本化学会編 化学同人 CSJ Current Review 2013) に著書 としてまとめた。これまでの基礎的研究を基盤として、有機磁性材料への応用を見据えた高スピン化分子に関して、複数のケイ素ラジカル中心を一つの分子に組み込んだ分子の合成に取り組み、その物性評価を今後の研究課題として現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
安定な化学種として合成に成功したケイ素=ケイ素二重結合化合物ジシレンを基盤とする常磁性化学種への展開としてイオンラジカル種の生成とその物性について検討した。ジシレンのアルカリ金属による2電子還元を検討し、アルカリ金属への配位子の構造、当量の制御により、アルカリ金属置換シリルラジカル、ケイ素二価化学種シリレンのアニオンラジカルを作り分けられることを見出すなど今まで合成不可能であった常磁性化学種を創製することができた。今後は、従来の単結晶X線構造解析やNMR、電子スペクトル、電気化学分析に加え、固体NMRや放射光を用いた電子密度解析などの理論化学や固体物性科学との共同研究を推進する必要がある。また、ケイ素、ゲルマニウム、スズなどの高周期典型元素をスピン中心に持つラジカル分子を合成し、外部刺激やレドックス制御によって誘起される分子変換、高速で可逆な酸化還元系における元素効果に関して実験的および理論的に究明する必要がある。また集積ポリラジカル分子を合成し、スピン多重度やラジカル間相互作用について明らかにする。高周期元素高スピン化合物の創製によって、スピン-レドックス制御に基づく有機磁性材料等への応用へと展開する。また、高周期元素の優れたレドックス特性に着目し、ラジカル電池等のデバイス化に向けて連携研究を推進していく。
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