研究実績の概要 |
本研究では,新奇な結合様式「π単結合による原子と原子の結びつき」の創製に基づく新しい物質科学の領域を切り拓くことを目標としている.π単結合化合物は,平面四配位の炭素を持ち,HOMO-LUMOギャップが小さく,酸化還元や可視光励起に鋭敏に応答する機能性分子として興味深い.π単結合化合物の創製は,π結合性軌道(ψS)に二電子が優先的に収容されるⅠ型の基底一重項ジラジカルの発生とその長寿命化により達成できる.
我々は,速度論的に安定化されたシクロブタン-1,3-ジラジカルとシクロペンタン-1,3-ジラジカルに着目し,1,3-ジラジカルの最安定スピン多重度に及ぼす2位の置換基と元素効果を見出してきた.2位の置換基が電子求引性の場合と4,5位に窒素原子を導入した場合にⅠ型の基底一重項ジラジカルを発生できる.本新学術領域研究が開始するまでに,アゾアルカンの脱窒素反応により2位にメトキシ基あるいはエトキシ基を持つ基底一重項ジラジカルの発生に成功していた.一重項ジラジカルは80K以下の温度では安定に存在し,可視光領域に強い吸収(λmax = ca. 570 nm)を持つ.273 K ベンゼン中の寿命は300 nsと880 nsであり,定量的にσ結合生成物が得られることが分かっていた.平成24年度の研究では,π単結合化合物の長寿命化に際し,二つの戦略,(1)アルコキシ基の置換基効果;(2)1,3-ジラジカルの3,4位の窒素元素効果を立案し研究を実施した.その結果,これまで寿命が300ナノ秒程度であったπ単結合化学種の寿命を5μsにまで延ばす事が出来た.
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