計画研究
π単結合性を持つ一重項ジラジカルのような開殻系分子は、化学反応の中間体のみならず、材料科学の観点からも興味が持たれ、その化学的性質を解明することは重要である。しかしながら、一般的にジラジカルは反応性が高く、短寿命であることが原因でその実験的研究が困難とされていた。我々は,これまでにシクロペンタン-1,3-ジラジカルの2位の置換基によりジラジカルのスピン制御が可能であることや、置換基の電子効果や立体効果を利用することでジラジカルの長寿命化が可能であることを明らかにしている.本年度は、ジラジカルの長寿命化に対して新たなアプローチとしてストレッチ効果の導入を試みた。通常、発生したジラジカルは直ちにσ結合を形成し、熱的に安定な閉環体となるが、環状分子構造では、ラジカル炭素を結合形成とは逆向きに引っ張る力(ストレッチ)を分子歪みによって生じさせることで結合形成を抑制し、ジラジカルの速度論的安定化を試みた.具体的には,26員環のマクロ環内にジラジカルをアゾ化合物の脱窒素反応で発生させ,生じたジラジカルの反応性を電子共鳴スペクトル及び時間分解過渡吸収スペクトル分光法を用いて精査した.その結果,非環状骨格内に発生した一重項ジラジカルの寿命が200 ナノ秒程度であるのに対し,26員環内に発生したジラジカルの寿命は,14マイクロ秒であり,約100倍寿命が長いことが分かった.その寿命に及ぼす温度効果を調査せることにより,環化反応の活性化エネルギーは50 kJ mol-1であることが分かった.今年度の研究により,一重項ジラジカルの長寿命化にストレッチ効果が有効であることが分かった.
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の当初の計画では,平成28年度に,π単結合性を持つ一重項ジラジカルのストレッチ効果に関する研究を実施する予定であった.ところが,マクロ環骨格を持つジラジカルの前駆体であるアゾ化合物の合成に平成27年8月頃に成功し,今回のように,当初の計画以上に研究が進展している結果になった.
今後の研究の推進方策としては,より大きな分子歪みによる一重項ジラジカルの長寿命化を目指し,マクロ環のサイズのチューンアップを行う.現在のところ,20員環のマクロ環の合成に成功している.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 11件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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